訳アリなの、ごめんなさい
和やかに食事を終えた妃殿下は、部屋に戻るとどこか疲れている様子だった。

すぐにユーリーンが休息の準備を進めてくれた。

「慣れない場所とは思いますが、ゆっくりお休みくださいませ」

そう言って下がろうとすると「待って」と妃殿下に袖を握られる。

何か足りない事があっただろうかと、振り向くと。

「少し、あなたとお話をしたいわ」

切迫した顔をでこちらを見上げるブルーの瞳があった。

内心動揺しつつ。それでも悟られないように努めて柔らかく微笑む

「承知しました。
ユーリーンにお茶を入れさせましょうか?」


「いえ、大丈夫よ」


その硬い言葉で、人払いをしてほしいのだと分かった。


ユーリーンに下がるよう伝えて、彼女をソファにに促すと、脇の1人がけの椅子に腰掛ける。


「あなたは、殿下にわたしのお相手役として雇われているのよね?」

腰を落ち着けて、視線が合うと早速と言うように彼女が口を開いた

「左様でございます」

出来るだけ落ち着いた声で答える。


「では、わたしと殿下を取り持つこともなさるのよね?」


「王太子殿下と妃殿下がご希望でしたら。確かに私は王太子殿下に雇われておりますので王太子殿下に不利益を被ることはでき兼ねますが、その範囲の上であれば、あなた様側につくべきと思っております。」

綺麗事はいくらでも言える。しかしこの人には、そんなものが通用しないだろう。

キッパリと本心を口にした。


「要するに状況次第なのね」

彼女は的確に私の言葉を理解したらしい。


薄々分かってはいたが、この妃は頭は悪くないのだと思う。


そう、

いま彼女はわたしを試している。

自分の駒として利用できる人間なのかどうなのか。

「そうですわね。ただ、今のところ殿下からは、あなた様が快適に穏やかにお過ごしするお手伝いをするようにと命じられております。もし何か不都合がございますれば、判断の上善処させていただきますし、何かトラブルの際には、迅速に対応させていただきます。」

努めて冷静に、感情をみせずに彼女を見つめた。

彼女もその美しいブルーの瞳で私ををじっと見つめかえしている。


「分かっているような口ぶりね」

静かな彼女の口調は、すこしトゲを含んでいる。


「どこまで理解できているかはまだ測り兼ねておりますわ」

首を傾げてわずかに口角を上げる。

しばらく沈黙がおりた。

「はぁ、もう分かったわ!」

しばらくして、諦めたように彼女が大きく息を吐いた。

「今日一日一緒にいて、あなたのセンスは悪くないと思ったわ。だから、話しておきたいの」


そう言うやいなや、背筋を伸ばして、しっかりと私を見据えた。


「私は、殿下を恨んでいるの」
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