訳アリなの、ごめんなさい
(セルーナ視点)

これで、もう


後戻りは出来なくなってしまった。


鐘の音を聞きながら、この日の主役、セルーナは胸のうちで大きく息を吐いた。



目の前に立つ、金髪の美しい青年がこちらを見て優しく微笑む。


全てはこの男が原因で、自分の人生は変わってしまったのだ。

祖国にはまだ結婚相手の決まらぬ適齢期の妹達がいたにもかかわらず、彼はわざわざセルーナを指名して婚姻を申し込んできた。

もちろん立場の弱い祖国がそれを断ることなどできない事を分かった上で。

なんて横暴なのか。

どうやら兄の結婚式で一方的に見染めたらしい。

しかし話した覚えもなければ顔をみた覚えもなかった。

もし気に入ったのであれば翌日の舞踏会で声をかけてくれば良かったのだ。

その場で好意を告げられればこちらも誠心誠意心を尽くして断った。

自分で女も口説けないような卑屈な男なのだろう、と嫌悪しか感じなかった。


しかしこの国にやってきて実際にその男に会ってみてどうだろう。

目鼻立ちの整った上品でいてどこか甘い顔立ちは、どう考えても女性にモテる。
そして、立ち居振る舞いも卑屈でもなければ横暴でもない。
むしろ、こちらの意を十分すぎるほど尊重してくれようとしているその姿勢。

出会うまでのイメージとは真逆で戸惑った。

時を共にしていく内に、きっと彼の妃は幸せになれる、そう思った。

しかし、それは何も知らなければだ。


愛する人を知ってしまい。その人との将来を夢見てしまった以上

素直にそれを喜ぶことは難しく。

この想いを忘れるには時間がかかる、もしくは生涯しこりを残すかもしれない。

彼の妃を務めることは問題なくできるかもしれない。


しかし


彼を心から愛することは、できるのだろうか
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