訳アリなの、ごめんなさい
王太子殿下の質問責めから解放されたのはすでにずいぶんと夜も深くなった時間だった。
殿下の命を受けたブラッドに送られて部屋へ戻る。


「見事というか、アーシャのその度胸はすごいな」

一連の殿下とのやり取りを見ていたブラッドは、殿下に臆する事なくアレコレと普通であれば言い辛いことを、サラリと言ってのけた私のその態度に驚いていた。

私は慌てて首を振る。

「お父様のおかげで、王族の方とお話しする事は慣れてるから。貴方が殿下の様子を見ながらいてくれたから、心強かったわ。ありがとう」

殿下と付き合いが長く、その性格もよく知っているブラッドが話の間も度々目配せをくれた事で、私自身も戸惑う事なく、必要なことを落ち着いて話す事ができたのだ。


「とりあえず、殿下はしばらく面倒なことになるな」

憂鬱そうに呟いた彼に、私は同情の視線を向ける。

「大変ね」


「アーシャもこれから十分巻き込まれるだろうから、お互い様だ」


「まぁ、それがお仕事だから仕方ないわね」

本当はこんなはずではなかったのだが、こうなってしまったからには仕方がない。


諦めてため息を吐くと、丁度部屋の前に到着した。

「ありがとう、今夜は徹夜?」

向き合って彼を見上げれば、彼はいつもの生真面目な表情をすこし緩めて、首を振る。


「いや、このまま休息だ。明日の舞踏会の護衛につかなければならないから」

「そう。大変ね」

殿下付きの騎士である彼は、配置的にも立場的にもそれなりに目立つ。
彼自身、昔からそれほど目立つ事が好きでは無いことを知っているから、随分疲れるだろうなぁと思う。


「アーシャは?ウェルシモンズ伯爵家も参加の資格はあるだろう?」

出ないのか?と聞かれ、小さく首を振る。

「妃殿下を裏からお支えするわ。うちはきっと兄が出てくると思うし」

自嘲気味に言うと、ブラッドの眉がわずかに寄る。
私が言う兄を意味する人を、正確に彼は理解したらしい。

「そうか、、、そういえば先ほどの話だが」

それ以上、舞踏会の参加には追及する事は無かったが、それ以上に蒸し返されたく無い話を持ち出されて、私の胸がドキっと跳ね上がる。


「きちんと話さないといけないと思うんだが」

どこか必死さを浮かべた彼は、一歩こちらに近づいてきた。

これは、良くない、、、。

「えぇ、そうね、、、でもまた改めましょう」

疲れた上に、今日は図らずとも他人のパニック発作を見てしまった。かなりマシになったとはいえ少しの感情の高ぶりで、私自身にも出かねない。

意識してしまうと、つっと背中に汗が滲むのを感じる。
危険な兆候だ。

慌てて、踵を返す。

「待て、アーシャ!」


部屋に戻ろうとするその腕を追いすがるようにブラッドが掴んだ。

瞬間、目の前がぐらりと揺れる。

くらい中に揺れるランプの黄色い光
腕を引く強い力。

閉じられた目の前の扉。


次の瞬間

ドクンと心臓が跳ね上がり、背筋をザァッと冷たいものが下がっていく


ダメ!


そう思ったときにはもうすでに遅かった

息が、苦しい
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