訳アリなの、ごめんなさい
目を覚ますと、なぜか私は懐かしい実家の庭に立っていた。

「アーシャ!」


どこからか私を呼ぶ声が聞こえて、振り返ると茶の髪を揺らして、少年がこちらに向かってくる所だった。

目の前まで来ると、綺麗で大好きな金茶の瞳が、私を捉えて、いつものように優しく髪をなでてくれた。

私より少し大人の大きな手。

彼に似合う大人になりたくて追いつきたいけど追いつけなくて、いつも子供扱いにむくれると、機嫌を取るように指先に口づけをして


普段の無愛想な顔を、照れくさそうに少しだけ緩めて笑ってくれるのだ。


しかし、この時はなぜかその手が頬を伝い、顎に止まると

チュッ

素早く彼の、暖かい唇が下りてきた。

驚いて見上げると、彼は気まずそうに表情をかためて、また私の頭をくしゃりとなでて、走り去ってしまった。

どういうことだと戸惑っていると、不意に意識が引っ張られて


私は、目を覚ました。



あれ?私
今のは夢だったの?

呆然としながら唇に触れる。
妙にリアルな感触だった。

「お目ざめですか?」

不意に声を掛けられて、そちらに視線を向けると

「お加減はどうですか?」とリラが心配そうにこちらを見ていた。


そこでようやく私は昨夜のことを思い出す。

息が苦しくなって、そのまま発作を起こして、、、。


背中をさする大きな手


大丈夫だと温かい手で包まれて

そして発作が収まると、その手が頭をゆっくり撫でてくれていた



「ブラッド、が?」

呟くと、「そうです!」とリラが不満そうに頷いた。

「覚えておいですか?エルドール大尉はお側で仮眠されて早朝に宿舎にお戻りになられましたわ!」

その、お嬢様をなだめているうちに一緒に寝てしまわれたので、起こすべきか迷ったのですが

不本意でしたがお休み頂きました、と彼女はむくれた。

彼女もだが、ブラッドも随分と居心地が悪かっただろう。

「そう、ブラッドに悪い事をしてしまったわね。もう大丈夫よ」


「よくはありませんが、、、でもようございましたわ」


彼女の複雑な心境が見てとれて思わず笑ってしまった。
< 33 / 116 >

この作品をシェア

pagetop