訳アリなの、ごめんなさい
「只今、妃殿下のお部屋に殿下がいらしたと」
自室で読書をしていると、入室してきたリラがそっと耳打ちをしてくれる。
「そう、殿下がご退室したら教えて。妃殿下のご機嫌を伺いに行くわ」
「承知いたしました」
リラは一礼して退室して行く。
その姿を見送って、重いため息が漏れる。
本当に大丈夫なのかしら、、、。
殿下が一晩寝ないで考えた妃殿下の口説き方はそれはそれはひどいもので、一緒に聞いたエドガーと目を覆ったのは言うまでもない。
やはり考え方を改めても、根っからの天然人たらしである。根本的に、愛された人間の発想であったのだ。
二人でやいのやいの言って考えを改めさせるのに苦労し、どうにかこうにか送り出したは良いものの
不安でしかない。
頭痛がしてきそうだ。
ただでさえ昨晩の発作のおかげで、頭が重いのに。
ふと今朝方の夢を思い出す。
あんな夢、今まで一度も見たことがなかった。それどころかブラッドが出てくる夢など久しく見ていない。
きっと、彼が近くにいたからなのだろうか、もうずいぶん昔のことなのに、髪をなでる手の感触はとてもリアルで懐かしかった。
そして口づけ。
一度だけ、彼が士官学校へ行く際に名残惜し気に泣く私をなだめるようにしてくれたことがあった。
そうだあの時と同じ、一瞬触れるような口づけだった。
思わず自分の唇を触る。
いつもより熱い、、ような気がする。
「そんな、まさかね」
自嘲して、本を閉じる。
なんだか興が削がれてしまった。
ブラッドは婚約破棄の真相を知りたがっていた。確かに互いに相手から破棄されたと思っていたことはおかしなことだ。
どこかで何かの力が働いているのであれば
おそらくは、、、。
ズキンと背中が疼いた。
慌てて息を吐いて、ゆっくり首を振る。
考えるのはよそう。
これ以上深みにはまると、また呼吸が苦しくなりかねない。
「失礼いたしますお嬢様」
突然先ほど出て行ったばかりのリラがやってきて、私の傍に屈み込む。
「お客人でございます。お嬢様のご親族といえばわかると仰せなのですが?」
「お客?」
眉を寄せる。私がこの王太子宮にいる事を知るものは限られているので、身内には間違いがないのだろうが、、、。
そういえば叔母もクラーク氏とともに今日の舞踏会には参加すると言っていた。
時間を作ってあなたの顔を見に行くわねと言われていたのである。
「きっと叔母だわ。自分で迎えに行くわ」
リラに言って立ち上がると、そのまま戸口へ向かう。
久しぶりに少し気分が高揚したのを感じて、自然と足取りが軽い気さえする。
叔母に話したい事も、相談したいことも沢山ある、彼女と話して少し気楽になろう。
玄関ホールの吹き抜けに出ると、早く叔母の姿を確認したくて、バルコニーから覗き見る。
そこにいた姿を見て、私の体が一気に冷えた。
反射的に、バルコニーから体を引いて身を隠す。
間違いない、あの、あの後ろ姿は、、、。
玄関ホールに騎士に見守られながら、手持ち無沙汰に立っていたのは、叔母ではない若い男だった。
ひょろりとした背丈に、自慢の赤毛をべっとりなでつけて固め、きっとその顔には、彼特有のあの嫌な笑みを浮かべているのであろう。
なぜ、彼が!?
がくりと足から力が抜けて、その場によろよろと座り込む。
それでも、少しでも彼から離れたくて、震えて力の入らない足でなんとか床を蹴り、廊下まで戻る。
「お嬢様?どうされました?」
後から付いてきたリラが、声を上げて駆け寄ってくる。
お願いだから静かにして!
言いたかったがその言葉は荒くなり始めた呼吸に邪魔されて出す事は敵わなかった。
震える右手に指を一本立てて、左手で支えると何とか顔の前に持っていき、駆け寄ってきた彼女に首を振る。
それでこちらの意が通じたらしく、彼女ははっと口をつぐむ。
はぁはぁと浅い呼吸を繰り返しながら、どうにか落ち着けと自分に言い聞かせるが、見つかったらと思う恐怖でなかなか思うようにいかない。
早くこの場から離れたいのに、足はしびれて感覚を失っている。
これではいずれ騒ぎになる、焦りはさらに呼吸を乱れさせ、目眩までしてくる。
だめ、ダメよ、逃げなきゃ
「どうした!?」
キィーンと鳴り響く耳鳴りの中で聞きなれた声と足音が近づいてくるのがわずかに分かった。
「アーシャ!?」
彼の叫び声に、リラがお静かに!と声を上げたのが聞こえたかと思うと、壁にもたれかかっていた体をふわりと誰かが支えてくれたのが分かった。
しかし、浅い呼吸にあえぎ、視界が涙とめまいでぼんやりしている自分には本当にそれが彼であるのかは確認ができない
しかし肩を包むその手がひどく暖かいものに感じられた。
自室で読書をしていると、入室してきたリラがそっと耳打ちをしてくれる。
「そう、殿下がご退室したら教えて。妃殿下のご機嫌を伺いに行くわ」
「承知いたしました」
リラは一礼して退室して行く。
その姿を見送って、重いため息が漏れる。
本当に大丈夫なのかしら、、、。
殿下が一晩寝ないで考えた妃殿下の口説き方はそれはそれはひどいもので、一緒に聞いたエドガーと目を覆ったのは言うまでもない。
やはり考え方を改めても、根っからの天然人たらしである。根本的に、愛された人間の発想であったのだ。
二人でやいのやいの言って考えを改めさせるのに苦労し、どうにかこうにか送り出したは良いものの
不安でしかない。
頭痛がしてきそうだ。
ただでさえ昨晩の発作のおかげで、頭が重いのに。
ふと今朝方の夢を思い出す。
あんな夢、今まで一度も見たことがなかった。それどころかブラッドが出てくる夢など久しく見ていない。
きっと、彼が近くにいたからなのだろうか、もうずいぶん昔のことなのに、髪をなでる手の感触はとてもリアルで懐かしかった。
そして口づけ。
一度だけ、彼が士官学校へ行く際に名残惜し気に泣く私をなだめるようにしてくれたことがあった。
そうだあの時と同じ、一瞬触れるような口づけだった。
思わず自分の唇を触る。
いつもより熱い、、ような気がする。
「そんな、まさかね」
自嘲して、本を閉じる。
なんだか興が削がれてしまった。
ブラッドは婚約破棄の真相を知りたがっていた。確かに互いに相手から破棄されたと思っていたことはおかしなことだ。
どこかで何かの力が働いているのであれば
おそらくは、、、。
ズキンと背中が疼いた。
慌てて息を吐いて、ゆっくり首を振る。
考えるのはよそう。
これ以上深みにはまると、また呼吸が苦しくなりかねない。
「失礼いたしますお嬢様」
突然先ほど出て行ったばかりのリラがやってきて、私の傍に屈み込む。
「お客人でございます。お嬢様のご親族といえばわかると仰せなのですが?」
「お客?」
眉を寄せる。私がこの王太子宮にいる事を知るものは限られているので、身内には間違いがないのだろうが、、、。
そういえば叔母もクラーク氏とともに今日の舞踏会には参加すると言っていた。
時間を作ってあなたの顔を見に行くわねと言われていたのである。
「きっと叔母だわ。自分で迎えに行くわ」
リラに言って立ち上がると、そのまま戸口へ向かう。
久しぶりに少し気分が高揚したのを感じて、自然と足取りが軽い気さえする。
叔母に話したい事も、相談したいことも沢山ある、彼女と話して少し気楽になろう。
玄関ホールの吹き抜けに出ると、早く叔母の姿を確認したくて、バルコニーから覗き見る。
そこにいた姿を見て、私の体が一気に冷えた。
反射的に、バルコニーから体を引いて身を隠す。
間違いない、あの、あの後ろ姿は、、、。
玄関ホールに騎士に見守られながら、手持ち無沙汰に立っていたのは、叔母ではない若い男だった。
ひょろりとした背丈に、自慢の赤毛をべっとりなでつけて固め、きっとその顔には、彼特有のあの嫌な笑みを浮かべているのであろう。
なぜ、彼が!?
がくりと足から力が抜けて、その場によろよろと座り込む。
それでも、少しでも彼から離れたくて、震えて力の入らない足でなんとか床を蹴り、廊下まで戻る。
「お嬢様?どうされました?」
後から付いてきたリラが、声を上げて駆け寄ってくる。
お願いだから静かにして!
言いたかったがその言葉は荒くなり始めた呼吸に邪魔されて出す事は敵わなかった。
震える右手に指を一本立てて、左手で支えると何とか顔の前に持っていき、駆け寄ってきた彼女に首を振る。
それでこちらの意が通じたらしく、彼女ははっと口をつぐむ。
はぁはぁと浅い呼吸を繰り返しながら、どうにか落ち着けと自分に言い聞かせるが、見つかったらと思う恐怖でなかなか思うようにいかない。
早くこの場から離れたいのに、足はしびれて感覚を失っている。
これではいずれ騒ぎになる、焦りはさらに呼吸を乱れさせ、目眩までしてくる。
だめ、ダメよ、逃げなきゃ
「どうした!?」
キィーンと鳴り響く耳鳴りの中で聞きなれた声と足音が近づいてくるのがわずかに分かった。
「アーシャ!?」
彼の叫び声に、リラがお静かに!と声を上げたのが聞こえたかと思うと、壁にもたれかかっていた体をふわりと誰かが支えてくれたのが分かった。
しかし、浅い呼吸にあえぎ、視界が涙とめまいでぼんやりしている自分には本当にそれが彼であるのかは確認ができない
しかし肩を包むその手がひどく暖かいものに感じられた。