訳アリなの、ごめんなさい
「はぅっ・・・っ」

急に呼吸を止められて、彼女が苦し気にうめく。抵抗するように手足に力が入るが、鍛えている自分には大した問題にもならない程度だった。


何度か苦し気に呼吸を求めて弛緩する彼女の舌を捕まえて強引に絡めながら、、時々わずかに息継ぎの間を与えながら何度か角度を変えてやる。

どれくらいの時が立ったのか、ゆるゆると彼女の身体から力が抜けていくのを感じた。

代わりに、角度を変えるたびに、湿っぽい喘ぐような吐息が漏れ出して

ゆっくりと唇を離した。

うるんだ瞳が呆然とこちらを見上げている。

組み敷いた、彼女の胸の動きは、まだ少し早いが、それでも先ほどに比べれば安定したリズムを刻んでいた。


「落ち着いた、か?」

息を吐き、汗ばんだ彼女の額にかかった髪を払ってやる。

「手荒な真似をしてすまなかった。」

まだ呆然としている彼女に詫びると、彼女が小さく首を振ったのが分かった。

「少し休め、何かあったら起こしに来るから」

そういって、髪を梳いてやると、アリシアは、ぼうっとしたまま、眠りに落ちていった。


ぐったりと目を閉じて、それでもきちんとしたリズムの呼吸を確認して安堵する。

そうしてようやくそこで、この部屋にいたのが自分だだけでなかったことに気づいた。


「すまない、寝てしまったから水はいらなかったな」

なんと声をかけていいのやらわからず、苦し紛れにそう声をかけると、戸口で固まっていた侍女は、こちらを睨みつけた表情はそのままに、ずんずんと近寄ってくる。

「何を、何をなさっておいでなのです!!仮にも騎士様が!お嬢様に!!」

わなわなと震えている。まぁ怒りも当然だ。
貴族の令嬢であれば結婚までは純潔を貫くのが常識であって、婚約者でもない男性と口づけを交わすなど言語道断である。

まぁ昔婚約者時代に一度口づけはしているのだが、今それを言ってもどうにも許してはもらえそうにはない。

「大丈夫だ、責任はとる」

「それは、あなた様がお決めになることではございません!!」

彼女の剣幕に押されて、寝室から追い立てられる。

折よく扉が叩かれて、ヴィンがリビングに顔を出した。

助かった。

「あとは頼んだ」

鬼のような形相をしたままの彼女に、それだけ言って、逃げるように退室した。


「どうした?」

慌てる自分と、なぜか敵を見るようにこちらを睨みつけている侍女を、閉まる扉越しに見たヴィンは不思議そうに聞いてきたが

「いや、まぁ、説明は後から」

自分ですら整理のついていない状況を人に話す気にはなれなかったため、とりあえず誤魔化した。

2人で並んで、階段を登り、王太子殿下の執務室へ向かう。

「兄君にはお帰りいただいたよ、若干渋られたけどね。」

「なぜこんなところまで、奴が来るんだ?」

「ご本人曰く、しばらく会っていない妹の顔を見にということらしいけど。なんていうか不愉快な男だね」

はぁっと息を吐いたヴィンは、呆れたような口調だった。

「お前もそう思うか、、、」


「事前に報告書で知っていたから納得できたけど、成り上がり貴族のモデルのようだったね」

「まぁ実際その通りだからな」

自分も一度、公式の場でしか会っていないが、話していて気分のいい男ではなかった事を覚えている。

「とにかく妹君は妃殿下について多忙のため、面会できる時間はしばらくないと伝えても、夜でもいいやら、戻るまで待たせてほしいだの、なかなかしつこくて」

参ったよと、普段人当たりが良くて飄々としている彼にしてはめずらしく、疲れた様子だ。

「そんなにも何がしたいのだろうな、何か伝えたいことがあれば、書付でも寄こせばいいものを」

「そうなんだよ、ただ妹の顔が見たいって。おおよそ妹を追い出して他家に預けている兄がとる行動じゃない」

「それにアリシアの反応だ、あれは完全におびえだ」
最後に低く呟くと、ヴィンも同意とばかりに頷いた。

自分が彼女の側にいない間に何が起こったのだろうか、あの親子が彼女に何かをしたのは今日のアリシアの反応を見れば明白で

嫌な想像が頭の中を過ぎる。

恐らくヴィンも同じことを考えたのだろう。

まぁ落ち着けよと肩に彼の手が乗せられる。

「お前たちの婚約解消も、彼らが関わっているかもな、まずはそこから切り込んだらどうだ?」

その言葉に、胸がズクっと痛む。
もしそうであるのなら。


「ちょっと調べてみる」
唸るように低く呟いた。
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