訳アリなの、ごめんなさい
4章
舞踏会は、主役である王太子殿下と妃殿下のダンスから始まり、華やかに盛り上がりを見せている。

長いこと独身であった殿下の妻の座を狙っていた数多くの令嬢たちが、異国から来た妃の美しさと、殿下の彼女への愛の深さをまざまざと見せつけられて落胆する姿を尻目にヴィンに耳打ちをして殿下のそばを離れる。

人垣をかき分けて、壁際でシャンパンを片手に立つ夫妻に近づく。

「兄上!」
「おぉ!わが弟じゃないか、立派な騎士姿だな」

喜んで両手を広げる男性に、それに寄り添い穏やかな笑みを浮かべている女性、彼らは自身の長兄のアックスと妻のビエンナだ

兄は末の弟を眩しそうに上から下まで眺めて抱擁を交わしてくる。

「お久しぶりです。義姉上も」

「えぇお久しぶりねブラッド」

義姉の手に挨拶がわりに口づけをする。

「なんだお前に話しかけてもらえるなら母様達もきたらよかったのに」


「母様もこちらに?」
意外そうな俺の言葉に兄は、そうそうと頷いた。

「昨日の挙式に参列していたよ、お前の騎士姿に大層感動してうるさいったらないよ」

まさかそんなところから親族にみられていたとは、、、少し照れ臭い。

「お前に会いたがっているから、こちらにいるうちに一度くらい帰って来いよ。ティナがお前が全然帰ってこないってこぼしていたぞ」

「忙しくてどうしても宿舎のほうが休めるんだ」

それにこの前帰った、と付け足すがティナにしてみれば、もっと帰ってきて欲しいと言う事なのだろう。

「まぁ殿下付きの特任騎士様だからな、仕方ないさ」
全て察しているであろう兄はきっとその辺のフォローも抜かりなくしてくれたのだろう。

「母様はいつまでこちらに?」

「一週間ほどは、いる予定だよ」

「どこかで会いに行くと伝えてくれ」

「あぁ、喜ぶよでも覚悟しろよ!殿下がご結婚された今、次はお前と両親は息巻いているぞ」

こればかりは俺も助けてやれないからな!と揶揄うように言われて、俺はこうして兄に声をかけた目的を思い出した。

「そのことなんだが、一つ兄上に頼みがあるんだ」

少し近づいて、低い声で兄に言えば

「なんだ、いい令嬢でもいるのか?」

彼の目が興味深そうに輝いた。
この人も両親と変わらず、弟の結婚には気を揉んでいる1人だから、無理もないだろう。

「アリシアとの婚約破棄の件を調べてほしい」

「お前!何年前のこと引きずってるんだよ!もう忘れろとあれほど」

予想通り、咎めるような、どこか残念な者を見るような視線が向けられた。

違う、いや違わないけど、、分かってはいたけどまぁ、そうだろうな。


「それが今、彼女、妃殿下のお付きで同じ職場にいるんだ」

「なんだって!自宅にはいないことは聞いていたけど」

そう言って兄の視線は明らかに場内にいるかもしれない彼女を探した。

「今日は表には出てきていないよ」

一言言って兄を落ち着かせると声を潜める。

「彼女、婚約破棄は俺からだと思っていた」

「バカな!だってあれはあちらから!」

非難するような兄の視線に頷く。

「俺もそうと思っているし実際誓約書も確認した。だが彼女はそう言っている。当時俺は家にいなくてどんなやり取りがされたかわからない。それを調べてくれないか?どこかで齟齬が起きているはずだ」

「わかった、確かに不可解だな、、、。調べよう。だが、どうするんだその後」

兄の少し期待に満ちた視線に俺はしっかりと頷く。

「全てを明らかにして、俺は彼女に結婚を申し込むつもりだ」


「なるほど」
兄が興味深そうに笑った。

「問題ないはずだ」

「確かにな、母様は喜ぶだろうな、だがウェルシモンズ伯爵家は最近いい話がない」


ちらりと兄が視線を外した。

ダンスの円の中で一際目立つ、赤毛の男。トラン・コーネリーン。

ダンスはお世辞にも上手いとは言えなかった。



「彼女は今あの家を離れて叔母の嫁ぎ先のノードルフ侯爵家が後見らしい」

「ノードルフ卿が後ろ盾か、、、ならば問題ないだろうね」

「頼みます」
殊勝に頭を下げると

「これで俺の悩みが一つ減るのなら、お安い御用さ」
と兄は笑い飛ばした。

それほど心配していないくせにと笑うと、殿下が移動を始めたのを視界の端で確認した。

「では私はこれで!よい夜を」

「全くこんな祝いの夜にも宮仕えはご苦労様だな」

あきれる兄夫妻に礼を取り、その場を離れた。
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