訳アリなの、ごめんなさい
舞踏会は大きな混乱もなく終了した。

王太子夫妻が賓客の見送りを終えて、控えの間に戻ると、ようやくそこでゆっくりと息がつけた。


「お前、あの兄貴に絡まれてたけど大丈夫だったか?」
すかさずそばにやってきたヴィンが肩に手を置き、顔を近づけてきた。

彼があの男と自分のやり取りに気づいていた事は知っていたので、素直に頷く。

「あぁ、妹に合わせろと言ってきた」

目の前のヴィンの眉が寄せられる。

「なんか、異常じゃないか?」

それには自分も激しく同意見であるため頷く。

「そう思う。その立場にないと受け合わなかったが、最後に、知られてもいいのか?と伝えろと言われた」

今思い出しても胸がザワリと騒ぐ。気味が悪い上に不愉快な男だった。

「なんだそれ脅迫?これ、アリシア嬢には?」
驚きながらも片目を歪めたヴィンの言葉には怒りも混ざっている。


「言うつもりはないさ!
昼の様子を見るに、また発作を起こしかねない」

吐き捨てるように言えば、ヴィンもそれがいいと頷く。

「彼女があれほど兄に怯えるのは、何か秘密を握られていると考えるべきだな。」

「そのようだ。クソっ!とにかくしばらく彼女の来客を徹底的に管理すべきだ」
忌々しいと呟くと、宥めるように肩に置かれたヴィンの手に力が入る。

「それがいい。しかし誰が良くてダメなのかは、、、本人に聞くしかないな。お前やれるか?」

ヴィンの言葉には俺はしっかりと頷く。

「彼女の家庭状況を一番知っているのは、俺だろうからな」

脳裏には苦しそうに息をしながら震える彼女が浮かぶ、もうあんな辛い思いはさせたくない。
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