訳アリなの、ごめんなさい
その日の午後は、婚儀の見届けにいらした妃殿下の兄上との面会であった。
王太子で多忙な彼は、明日国に戻るらしい。
セルーナ妃に、是非紹介したいと連れて行かれ、面会をするこになった。
以前外交の場で姿を見た事があるが、話をするのは初めてだった。「おてんばな妹をよろしくお願いしますね」と丁寧に頼まれて恐縮したものの、とても穏やかで優しい人だった。
「良き兄上様でございますね」
迎賓館からの帰宅途中の馬車の中で声をかければ、妃殿下は嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、とても兄弟思いで、今回のことも、ずいぶん親身になってくれていました。」
「そうですか、、、ご様子をみて安堵しておられましたね」
「えぇ、兄はほら、、私が兄に遠慮して婚儀を遅らせていたのが、こういう形になってしまった事を心苦しく思っていたと思うのよ」
少し安心して欲しかったの、と彼女は笑った。
だからなのか、、、今日の彼女は、兄の前でどこかいつもよりはしゃいでいるようにも見えた。
「ねぇ、アーシャは兄弟は?」
唐突に話をこちらに向けられて、一瞬言葉に詰まった。
どうやらいつまでも湿っぽい話はしたくない!という事らしいが、
質問の内容が、申し訳ない事にあまり良い方向の話ではなかった。
「兄が1人いましたが、、、数年前に病でなくなりました」
「まぁそうだったの?ごめんなさい!」
慌てたように彼女か口に手を当てたのを見て、申し訳ない気持ちになる。
「いえ、もう数年前の事ですから!」
「じゃあ今は?あなたのご実家、、、ウェルシモンズ伯爵家は?」
貴方が継ぐの?と聞かれて、首を振る。
たしかオルレアの貴族は後継の男子がいない場合、無条件で女性が後継となる事が認められていたはずである。
だが我が国は、少し事情が違って、無条件では認められるという訳ではないのだ。彼女はそれを知っていて、聞いたのだろう。どこか心配そうな瞳でにこちらを見ていた。
「えっと、複雑なのですが、、異母兄がおりまして今は彼が」
「あらそうなの?あぁ、だからノードルフ卿が後見に?」
流石というべきか、今の一言で彼女の中で色々な事が計算されたらしい。
唯一の跡取りの死、跡取りになる事ができるか分からない娘に、異母兄の存在。
そして他家が後ろ盾になっている事。
どう考えても訳ありな上
実家とうまくいっていない事は明白だ。
「はい、ノードルフ侯爵家は叔母の嫁ぎ先なものですからそちらにお世話になる事が多くて」
「なるほど!あら、そういえば叔母様がいらしていたのよね?」
「えぇ、心配していたようなので安心してもらえてよかったです」
「それは良かったわ。今度は私もぜひご挨拶させてね」
特に何もこだわる様子もなく妃殿下は自然と話を変えてくれた。
「そんな事を言ったら。叔母は感激しますわ」
「楽しみにしてるから、絶対よ!」
「わかりました」.
二人でくすくすと笑い合う。
まだ王太子宮までは少し距離があった。
「あのね、、、昨夜、閨で殿下とゆっくりお話したわ」
しばらくの沈黙の後に、妃殿下がポツリと話し始めたので、無意識に背筋が伸びた。
それについては彼女から話があるまでは触れずにおこうと思っていたので、いよいよかと内心緊張したが、それを彼女に見せないように努めてなんでもないように微笑む。
「いかが、でしたか?」
「本当に素直というか正直な方よね~」
どこか遠い目をしながら少し呆れたように息を吐き出した彼女に
王太子殿下は何を言ったんだ?と若干心配になる。
「少しずつわかり合っていける気がするわ。
殿下もそれでいいとおっしゃるし。」
「それが、良いと思います。」
思わず安堵のため息が漏れそうだったが、なんとか堪えた。
良かった、とりあえず拗れてはいないし、妃殿下にも、好感触であったらしい。
「及ばずながらお手伝いいたしますから、何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいませね」
妃殿下の手を取り、微笑めば
「ありがとう。アーシャ頼りにしているわ」
彼女もその手を握り返して、微笑んだ。
ちょうど良く馬車が門前についたところだったが、この日はなぜか、いつもと違う裏門に向かってるらしい。
「どうしたの?」
不審に思って御者に聞いてみると
「何やら正門はゴタついておりまして、、、ご婦人方を巻き込む訳には参りませぬので申し訳ありませんが裏口からお入り下さい。」
と説明されて
「あら、何かしらね?」と2人で首を捻った。
この宮の主人の一人である妃殿下を裏口に回させるなんて、よほどの事が起こっているのには違いないが、下手に面倒事に巻き込まれるよりはいいかと納得していると
その裏口にはブラッドの姿があった。
「ブラッド?お迎えなんてどうしたの?」
馬車を降りて首を傾げれば、彼は任務中の騎士の顔で、しっと指を立てて鼻先に当てる。
「おかえりなさいませ。こちらです。」
私達を建物の中に素早く、促す。
彼は裏門の扉を閉めると、神妙な顔でこちらを見た。
その彼のわずかに変わった緊張感のある顔に、何故か嫌な予感がした
「まさか、また兄が?」
つい、出てしまった言葉に、彼はゆっくりと頷いた。
そして、落ち着かせるように両手で肩を包まれる。
「大丈夫だ、お帰りいただくよう近衛が対応している。ひとまず妃殿下のお部屋へ」
そう言って彼は、黙って私達を先導していく。
もちろん妃殿下の護衛も後ろについてはいるのだが、彼等も何かを察しているのか、一切異論を言うものは居なかった。
少し遠回りをするのは、エントランスを避けるためだろう。
妃殿下の部屋に着くと、ブラッドは「落ち着いたら迎えにくる」と言って妃殿下にも、しばらく私を留めておいて欲しいと許可をもらって出て行ってしまった。
「どうしたのかしら?」
訳がわからない妃殿下は首を傾げている。
当然だ。
しかしこんな事に一国の王太子妃を巻き込んでしまっている事が心の底から申し訳ない。
「申し訳ありません。私の身内がご迷惑をお掛けしているようで」
「お身内?」
首を傾ける妃殿下は、まだよく分からないという顔をしている。
少し迷って
ここまで巻き込んでしまっているのなら、やはり話すべきだと決心した。
「先ほど話した異母兄です。このところ会いたいと訪ねて来るのですが、その、、、複雑な家庭事情であまり兄弟仲は良くないので私が拒否をしているのですが、、、どうやらしつこいようで」
そこまで言うと、妃殿下の瞳が驚きに見開かれる。
「まぁ、大変!」
「申し訳ありません」
こんないち伯爵家のトラブルに、国で1、2を争う高貴な立場の彼女を巻き込むなどあってはならないのだ。
深く頭を下げると、すぐにその肩を妃殿下が掴んだ。
「あなたは悪くないわ!頭をお上げなさい!
断られているのに何度も妹君の職場に押しかけるなんて、責められるべきはその異母兄の方だけだわ!」
力強く言われて、無理やり身体を起こされた。
「それにしても、嫌がらせかしらね?」
顎に手を当てて、物語の中の探偵のようにウロウロと妃殿下は部屋を歩き出した。
「もしそうなら、近衛や騎士の方々にご迷惑をお掛けして、、」
「それも彼らの仕事ですもの、気にしないことよ!」
ピシャリと言われて、言葉を失った。
そして私が言葉を失った、その隙に妃殿下は
「そうだ!お茶でも飲みましょう!ユーリーン!用意してくれる?」
「かしこまりました。」
侍女に指示をして、ソファに座った。
「アーシャも座りましょう!そんな所で気を揉んでいたら負けよ!負け!」
王太子で多忙な彼は、明日国に戻るらしい。
セルーナ妃に、是非紹介したいと連れて行かれ、面会をするこになった。
以前外交の場で姿を見た事があるが、話をするのは初めてだった。「おてんばな妹をよろしくお願いしますね」と丁寧に頼まれて恐縮したものの、とても穏やかで優しい人だった。
「良き兄上様でございますね」
迎賓館からの帰宅途中の馬車の中で声をかければ、妃殿下は嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ、とても兄弟思いで、今回のことも、ずいぶん親身になってくれていました。」
「そうですか、、、ご様子をみて安堵しておられましたね」
「えぇ、兄はほら、、私が兄に遠慮して婚儀を遅らせていたのが、こういう形になってしまった事を心苦しく思っていたと思うのよ」
少し安心して欲しかったの、と彼女は笑った。
だからなのか、、、今日の彼女は、兄の前でどこかいつもよりはしゃいでいるようにも見えた。
「ねぇ、アーシャは兄弟は?」
唐突に話をこちらに向けられて、一瞬言葉に詰まった。
どうやらいつまでも湿っぽい話はしたくない!という事らしいが、
質問の内容が、申し訳ない事にあまり良い方向の話ではなかった。
「兄が1人いましたが、、、数年前に病でなくなりました」
「まぁそうだったの?ごめんなさい!」
慌てたように彼女か口に手を当てたのを見て、申し訳ない気持ちになる。
「いえ、もう数年前の事ですから!」
「じゃあ今は?あなたのご実家、、、ウェルシモンズ伯爵家は?」
貴方が継ぐの?と聞かれて、首を振る。
たしかオルレアの貴族は後継の男子がいない場合、無条件で女性が後継となる事が認められていたはずである。
だが我が国は、少し事情が違って、無条件では認められるという訳ではないのだ。彼女はそれを知っていて、聞いたのだろう。どこか心配そうな瞳でにこちらを見ていた。
「えっと、複雑なのですが、、異母兄がおりまして今は彼が」
「あらそうなの?あぁ、だからノードルフ卿が後見に?」
流石というべきか、今の一言で彼女の中で色々な事が計算されたらしい。
唯一の跡取りの死、跡取りになる事ができるか分からない娘に、異母兄の存在。
そして他家が後ろ盾になっている事。
どう考えても訳ありな上
実家とうまくいっていない事は明白だ。
「はい、ノードルフ侯爵家は叔母の嫁ぎ先なものですからそちらにお世話になる事が多くて」
「なるほど!あら、そういえば叔母様がいらしていたのよね?」
「えぇ、心配していたようなので安心してもらえてよかったです」
「それは良かったわ。今度は私もぜひご挨拶させてね」
特に何もこだわる様子もなく妃殿下は自然と話を変えてくれた。
「そんな事を言ったら。叔母は感激しますわ」
「楽しみにしてるから、絶対よ!」
「わかりました」.
二人でくすくすと笑い合う。
まだ王太子宮までは少し距離があった。
「あのね、、、昨夜、閨で殿下とゆっくりお話したわ」
しばらくの沈黙の後に、妃殿下がポツリと話し始めたので、無意識に背筋が伸びた。
それについては彼女から話があるまでは触れずにおこうと思っていたので、いよいよかと内心緊張したが、それを彼女に見せないように努めてなんでもないように微笑む。
「いかが、でしたか?」
「本当に素直というか正直な方よね~」
どこか遠い目をしながら少し呆れたように息を吐き出した彼女に
王太子殿下は何を言ったんだ?と若干心配になる。
「少しずつわかり合っていける気がするわ。
殿下もそれでいいとおっしゃるし。」
「それが、良いと思います。」
思わず安堵のため息が漏れそうだったが、なんとか堪えた。
良かった、とりあえず拗れてはいないし、妃殿下にも、好感触であったらしい。
「及ばずながらお手伝いいたしますから、何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいませね」
妃殿下の手を取り、微笑めば
「ありがとう。アーシャ頼りにしているわ」
彼女もその手を握り返して、微笑んだ。
ちょうど良く馬車が門前についたところだったが、この日はなぜか、いつもと違う裏門に向かってるらしい。
「どうしたの?」
不審に思って御者に聞いてみると
「何やら正門はゴタついておりまして、、、ご婦人方を巻き込む訳には参りませぬので申し訳ありませんが裏口からお入り下さい。」
と説明されて
「あら、何かしらね?」と2人で首を捻った。
この宮の主人の一人である妃殿下を裏口に回させるなんて、よほどの事が起こっているのには違いないが、下手に面倒事に巻き込まれるよりはいいかと納得していると
その裏口にはブラッドの姿があった。
「ブラッド?お迎えなんてどうしたの?」
馬車を降りて首を傾げれば、彼は任務中の騎士の顔で、しっと指を立てて鼻先に当てる。
「おかえりなさいませ。こちらです。」
私達を建物の中に素早く、促す。
彼は裏門の扉を閉めると、神妙な顔でこちらを見た。
その彼のわずかに変わった緊張感のある顔に、何故か嫌な予感がした
「まさか、また兄が?」
つい、出てしまった言葉に、彼はゆっくりと頷いた。
そして、落ち着かせるように両手で肩を包まれる。
「大丈夫だ、お帰りいただくよう近衛が対応している。ひとまず妃殿下のお部屋へ」
そう言って彼は、黙って私達を先導していく。
もちろん妃殿下の護衛も後ろについてはいるのだが、彼等も何かを察しているのか、一切異論を言うものは居なかった。
少し遠回りをするのは、エントランスを避けるためだろう。
妃殿下の部屋に着くと、ブラッドは「落ち着いたら迎えにくる」と言って妃殿下にも、しばらく私を留めておいて欲しいと許可をもらって出て行ってしまった。
「どうしたのかしら?」
訳がわからない妃殿下は首を傾げている。
当然だ。
しかしこんな事に一国の王太子妃を巻き込んでしまっている事が心の底から申し訳ない。
「申し訳ありません。私の身内がご迷惑をお掛けしているようで」
「お身内?」
首を傾ける妃殿下は、まだよく分からないという顔をしている。
少し迷って
ここまで巻き込んでしまっているのなら、やはり話すべきだと決心した。
「先ほど話した異母兄です。このところ会いたいと訪ねて来るのですが、その、、、複雑な家庭事情であまり兄弟仲は良くないので私が拒否をしているのですが、、、どうやらしつこいようで」
そこまで言うと、妃殿下の瞳が驚きに見開かれる。
「まぁ、大変!」
「申し訳ありません」
こんないち伯爵家のトラブルに、国で1、2を争う高貴な立場の彼女を巻き込むなどあってはならないのだ。
深く頭を下げると、すぐにその肩を妃殿下が掴んだ。
「あなたは悪くないわ!頭をお上げなさい!
断られているのに何度も妹君の職場に押しかけるなんて、責められるべきはその異母兄の方だけだわ!」
力強く言われて、無理やり身体を起こされた。
「それにしても、嫌がらせかしらね?」
顎に手を当てて、物語の中の探偵のようにウロウロと妃殿下は部屋を歩き出した。
「もしそうなら、近衛や騎士の方々にご迷惑をお掛けして、、」
「それも彼らの仕事ですもの、気にしないことよ!」
ピシャリと言われて、言葉を失った。
そして私が言葉を失った、その隙に妃殿下は
「そうだ!お茶でも飲みましょう!ユーリーン!用意してくれる?」
「かしこまりました。」
侍女に指示をして、ソファに座った。
「アーシャも座りましょう!そんな所で気を揉んでいたら負けよ!負け!」