訳アリなの、ごめんなさい
「どうしたんだ?ブラッドお前らしく無いな」
王太子殿下の執務室へ戻る道すがら、ククッと笑った殿下がこちらを伺った。
その顔は、何か面白いものを見つけたとでも言うようで
気づかれていたかと、息を吐く。
「お気づきでしたか。警護中の不注意、大変申し訳ございません。」
大真面目に頭を下げてみる。
先程の自分の様子は警護の職責にあっていない。それを警護対象に気づかれるなどあってはならない事ではあるのだが
殿下はさらにククッと笑う。
「咎めているわけじゃ無いことは、分かっているくせに!お前があんな目で女性を見るなんて思いもしなかったぞ」
「申し訳ありません」
それでも反省すべきなのだが、この主人はそういうことには良くも悪くもあまり頓着しない。
殿下がフンと鼻で笑う。
「一目惚れか?アリシア嬢に」
「いえ、幼馴染なので」
憮然と答えると、ほぅと殿下が何かを考えこむ。
「そういえばウェルシモンズ領とストラッド領は隣同士だったか」
「はい、母同士の仲が良かったものですから。しかし再会するのは士官学校に入ってからですので5年ぶりですが」
5年前、最後に会った時は、まだ幼さの残る頬に翡翠のように深いグリーンの瞳から溢れた涙をポロポロ落として、こちらを見上げていた。
その姿が可愛らしくて、ついいけないと思いながらも、若い自分は我慢ができなくて、彼女の唇にキスをしたのだ。
手紙を送る。休暇になったら会いにくると約束して。そして彼女がくれたお守りだという彼女の瞳の色と同じ翡翠飾りの付いた鞘飾りを受け取った。
可愛いらしかった、かつての婚約者は洗練された大人の女に成長して、突如として自分の前に姿を現したのに。
「なんだ、そうならもう少し話をしてもよかったのだぞ?」
「いえ、実は昨日一度、話をしておりますので」
「そうだったのか!もっと早く言えばいいものを」
殿下の言葉に申し訳ありませんと詫びようとしたとき、今まで黙っていたもう1人の騎士、ヴィンがククッと笑う
「複雑なんですよ殿下、彼女はこいつの元婚約者ですから」
余計なことをと、士官学校からの同期を睨みつける。
「そうなのか!?」
確認するように見上げられて、観念するようにうなずく
「2年ほど前に。士官学校に入ってから後、なかなか多忙で実家にも帰られず、彼女も父上について外遊をしておりましたので、すれ違っておりまして」
「それで解消か?」
そんなことで?と殿下が訝しげにこちらを見る。
まぁ、そうだよなぁと、息を吐く。
「ちょうど彼女のお父上が急逝されて、それを機に婚約解消を申し入れられたので、子細は分かりかねます。」
何しろ突然だったのだ。自分も驚いた。
想う男でも出来ていたのだろう。
仕方がない。
忙しさにかまけて手紙もなかなか出せず、節目節目にカードは送っていたが、照れ臭さもあり、簡単な季節の挨拶のみだったのだ。
そんなつまらない男より、社交界デビューをして外国を飛び回っていた彼女にとって、目の前にいる生身の男の方がいいにきまっている。
はっとすると、気の毒そうに2人の視線がこちらを見ていた。
士官学校の同期のヴィンはリアルタイムでその時を知っている。
殿下もなかなか鋭い人だ、なんとなく理解をされたのだろう。
「そうか、ふむ」
その時は理解したというように頷いて、その話題はそこで終わった。
王太子殿下の執務室へ戻る道すがら、ククッと笑った殿下がこちらを伺った。
その顔は、何か面白いものを見つけたとでも言うようで
気づかれていたかと、息を吐く。
「お気づきでしたか。警護中の不注意、大変申し訳ございません。」
大真面目に頭を下げてみる。
先程の自分の様子は警護の職責にあっていない。それを警護対象に気づかれるなどあってはならない事ではあるのだが
殿下はさらにククッと笑う。
「咎めているわけじゃ無いことは、分かっているくせに!お前があんな目で女性を見るなんて思いもしなかったぞ」
「申し訳ありません」
それでも反省すべきなのだが、この主人はそういうことには良くも悪くもあまり頓着しない。
殿下がフンと鼻で笑う。
「一目惚れか?アリシア嬢に」
「いえ、幼馴染なので」
憮然と答えると、ほぅと殿下が何かを考えこむ。
「そういえばウェルシモンズ領とストラッド領は隣同士だったか」
「はい、母同士の仲が良かったものですから。しかし再会するのは士官学校に入ってからですので5年ぶりですが」
5年前、最後に会った時は、まだ幼さの残る頬に翡翠のように深いグリーンの瞳から溢れた涙をポロポロ落として、こちらを見上げていた。
その姿が可愛らしくて、ついいけないと思いながらも、若い自分は我慢ができなくて、彼女の唇にキスをしたのだ。
手紙を送る。休暇になったら会いにくると約束して。そして彼女がくれたお守りだという彼女の瞳の色と同じ翡翠飾りの付いた鞘飾りを受け取った。
可愛いらしかった、かつての婚約者は洗練された大人の女に成長して、突如として自分の前に姿を現したのに。
「なんだ、そうならもう少し話をしてもよかったのだぞ?」
「いえ、実は昨日一度、話をしておりますので」
「そうだったのか!もっと早く言えばいいものを」
殿下の言葉に申し訳ありませんと詫びようとしたとき、今まで黙っていたもう1人の騎士、ヴィンがククッと笑う
「複雑なんですよ殿下、彼女はこいつの元婚約者ですから」
余計なことをと、士官学校からの同期を睨みつける。
「そうなのか!?」
確認するように見上げられて、観念するようにうなずく
「2年ほど前に。士官学校に入ってから後、なかなか多忙で実家にも帰られず、彼女も父上について外遊をしておりましたので、すれ違っておりまして」
「それで解消か?」
そんなことで?と殿下が訝しげにこちらを見る。
まぁ、そうだよなぁと、息を吐く。
「ちょうど彼女のお父上が急逝されて、それを機に婚約解消を申し入れられたので、子細は分かりかねます。」
何しろ突然だったのだ。自分も驚いた。
想う男でも出来ていたのだろう。
仕方がない。
忙しさにかまけて手紙もなかなか出せず、節目節目にカードは送っていたが、照れ臭さもあり、簡単な季節の挨拶のみだったのだ。
そんなつまらない男より、社交界デビューをして外国を飛び回っていた彼女にとって、目の前にいる生身の男の方がいいにきまっている。
はっとすると、気の毒そうに2人の視線がこちらを見ていた。
士官学校の同期のヴィンはリアルタイムでその時を知っている。
殿下もなかなか鋭い人だ、なんとなく理解をされたのだろう。
「そうか、ふむ」
その時は理解したというように頷いて、その話題はそこで終わった。