訳アリなの、ごめんなさい
「どうしたの?なんか今日は顔色がよくなさそうよ」
妃殿下の美しい青い瞳にじっと見つめらて、私は慌てて手を振る。
「少し夜更かしをしてしまって!大丈夫です。」
朝起きたら、泣きはらしたせいで瞳がパンパンに腫れていた。慌てて冷やして随分腫れはひいたが、リラに手伝ってもらって化粧で誤魔化しているのだ。
「無理しないで頂戴ね?今夜の晩餐会はあなたは取りやめてもいいのよ?」
「大丈夫ですわ。」
今夜は殿下の仲間内の結婚祝賀を兼ねた晩餐会があるのだ。
妃殿下にとっては知らぬ者の多い場所である。ついていかないなんてことは絶対にできないのだ。
おそらくそこには騎士としてブラッドも行くのだろう。
少し気が重いのが正直なところだが、互いに仕事だ。
うん大丈夫、きっと、、、。
晩餐会が行われたのは、王太子殿下の叔父であるカロニックス公爵の邸宅だった。
こちらには王太子殿下と同じ年の従兄弟であるロドニー・ミルドールド卿がおり、彼が殿下のごく親しい友人達を集めて開催しているのだと言う。
そのため、どちらかと言うと肩の力を抜いた会であると言うことで、主役の一人であるセルーナ妃は、祖国オルレア風の、胸元で切り返された光沢のあるゆったりした白いドレスに、殿下が選んだと言う、これたまオルレア風のゴールドリングのチョーカーとブレスレットと言う異国風の出立ちで、それに控える自分は。彼女を引き立てるような、すこし光沢のあるブルーグレーの広がりの少ないAラインのドレスに身を包む。
準備が整い、一行は馬車に乗り込んだ。
今日はご夫妻揃って馬車に乗られたため、一緒に乗ったのは書記官のエドガーであった。
「控えめなお色になさっていてもさすがお美しいですね」
姿を見るなり、きちんと自然な調子で褒める事を忘れない辺り、さすが既婚者である。
殿下と年齢は変わらないのだが、落ち着き方が違う。
「ありがとうございます。地味すぎやしないかとすこし心配していたのですが」
「妃殿下が白のドレスですから、その後ろに立っていても目を惹かず、ちょうどよろしいかと。もっと明るい色もお似合いでしょうが」
「ありがとうございます」
嫌味のない自然な言葉に、素直に礼を言う。
「わたしの妻のアメリアも現地で合流いたします。殿下の周りの方々、とくにご婦人方には顔もひろうございますから、大いに頼って下さい」
「まぁそれは心強いです」
たしかエドガーの妻は、伯爵家の出身で殿下の妹君の近習だったらしい。
ゆえに、幼い頃から殿下の周りの貴族達とも交流が多いため、不慣れな妃殿下と自分にとっては心強い味方になるだろう。
「ところで、ブラッドとは何かありましたか?」
特にこだわりもない様子で、サラリとエドガーが発した言葉に、私の胸が跳ね上がった。
何の前触れも、覚悟をさせる隙もなく、ぶち込んでこられると思っていなかった私は、明らかに引きつった顔をしてしまっていただろう。
「何かとは?」
なんとか取り繕って、笑顔を貼り付けてみたものの、目の前のエドガーは「あったのですね、、、」と確信めいた顔をしていた。
「彼、今日様子がおかしくて」
あなたもですよね?と彼の心の声が聞こえてきそうで、慌てて彼から視線を逸らした。
「さぁ、なんでしょう」
誤魔化しきれないのはわかっているが、ここでブラッドの同僚に私の口から、求婚されたけどお断りしましたなんて言えるはずもない。
おそらく殿下の優秀な書記官であるエドガーは、なんとなしにそうした事を察したのだろう。
ひとつ息を吐くと、追求するような視線を逸らして窓の外を見る。
「一応、今夜は彼があなたのエスコート役だったのですが、ちょっと心配だったのでヴィンに変更させていただきました」
事務的な色の強い言葉と口調でそれだけ言うと、それ以降ブラッドの事を話すことは無かった。
妃殿下の美しい青い瞳にじっと見つめらて、私は慌てて手を振る。
「少し夜更かしをしてしまって!大丈夫です。」
朝起きたら、泣きはらしたせいで瞳がパンパンに腫れていた。慌てて冷やして随分腫れはひいたが、リラに手伝ってもらって化粧で誤魔化しているのだ。
「無理しないで頂戴ね?今夜の晩餐会はあなたは取りやめてもいいのよ?」
「大丈夫ですわ。」
今夜は殿下の仲間内の結婚祝賀を兼ねた晩餐会があるのだ。
妃殿下にとっては知らぬ者の多い場所である。ついていかないなんてことは絶対にできないのだ。
おそらくそこには騎士としてブラッドも行くのだろう。
少し気が重いのが正直なところだが、互いに仕事だ。
うん大丈夫、きっと、、、。
晩餐会が行われたのは、王太子殿下の叔父であるカロニックス公爵の邸宅だった。
こちらには王太子殿下と同じ年の従兄弟であるロドニー・ミルドールド卿がおり、彼が殿下のごく親しい友人達を集めて開催しているのだと言う。
そのため、どちらかと言うと肩の力を抜いた会であると言うことで、主役の一人であるセルーナ妃は、祖国オルレア風の、胸元で切り返された光沢のあるゆったりした白いドレスに、殿下が選んだと言う、これたまオルレア風のゴールドリングのチョーカーとブレスレットと言う異国風の出立ちで、それに控える自分は。彼女を引き立てるような、すこし光沢のあるブルーグレーの広がりの少ないAラインのドレスに身を包む。
準備が整い、一行は馬車に乗り込んだ。
今日はご夫妻揃って馬車に乗られたため、一緒に乗ったのは書記官のエドガーであった。
「控えめなお色になさっていてもさすがお美しいですね」
姿を見るなり、きちんと自然な調子で褒める事を忘れない辺り、さすが既婚者である。
殿下と年齢は変わらないのだが、落ち着き方が違う。
「ありがとうございます。地味すぎやしないかとすこし心配していたのですが」
「妃殿下が白のドレスですから、その後ろに立っていても目を惹かず、ちょうどよろしいかと。もっと明るい色もお似合いでしょうが」
「ありがとうございます」
嫌味のない自然な言葉に、素直に礼を言う。
「わたしの妻のアメリアも現地で合流いたします。殿下の周りの方々、とくにご婦人方には顔もひろうございますから、大いに頼って下さい」
「まぁそれは心強いです」
たしかエドガーの妻は、伯爵家の出身で殿下の妹君の近習だったらしい。
ゆえに、幼い頃から殿下の周りの貴族達とも交流が多いため、不慣れな妃殿下と自分にとっては心強い味方になるだろう。
「ところで、ブラッドとは何かありましたか?」
特にこだわりもない様子で、サラリとエドガーが発した言葉に、私の胸が跳ね上がった。
何の前触れも、覚悟をさせる隙もなく、ぶち込んでこられると思っていなかった私は、明らかに引きつった顔をしてしまっていただろう。
「何かとは?」
なんとか取り繕って、笑顔を貼り付けてみたものの、目の前のエドガーは「あったのですね、、、」と確信めいた顔をしていた。
「彼、今日様子がおかしくて」
あなたもですよね?と彼の心の声が聞こえてきそうで、慌てて彼から視線を逸らした。
「さぁ、なんでしょう」
誤魔化しきれないのはわかっているが、ここでブラッドの同僚に私の口から、求婚されたけどお断りしましたなんて言えるはずもない。
おそらく殿下の優秀な書記官であるエドガーは、なんとなしにそうした事を察したのだろう。
ひとつ息を吐くと、追求するような視線を逸らして窓の外を見る。
「一応、今夜は彼があなたのエスコート役だったのですが、ちょっと心配だったのでヴィンに変更させていただきました」
事務的な色の強い言葉と口調でそれだけ言うと、それ以降ブラッドの事を話すことは無かった。