訳アリなの、ごめんなさい
「は?婚約ですか?」
兄の訪問が落ち着いて数日。久しぶりにノードルフ侯爵邸の別邸に、なぜか予定を延期して逗留している叔母に会いにいくと、待っていたと言わんばかりに、叔父叔母に囲まれてそんな話をされた。
「唐突すぎやしませんか?私は妃殿下付きになったばかりですし、第一結婚をする気はないと」
「それが困った事になってしまってね」
抗議する私に、叔父がため息をつく
「これなんだが」
そう言って目の前に出されたのは、少し経年を感じる用紙だった。
覗き込むと
婚約破棄の承諾書である。
「見覚えは?」そう叔父に聞かれて素直に私は首を振った。
「ありません」
「そうだろうとも」
叔父が頷いてトントンと、指を指す。
「これは君とブラッドの婚約破棄の証明書だ。」
覗き込むと確かに、2人の氏名がそれぞれ違う筆跡で書いてある。
「書いた覚えは?」
そう叔父に聞かれて、私は首を捻る。
「ありませんけど?」
叔父が息を吐いた。
「トランかベルーナか、おそらくどちらかの筆跡だろうな。」
「あのこれは?」
意味が分からず私は首を捻る。
「提出文書の写しだ、ストラッド伯爵夫人からお借りした。
君の筆跡でないことはすでに調査に出して証明されている」
そう言った叔父は、一枚の封筒をテーブルに置いた。
「どういうことですか?」
まだ意味がわからない私は首を傾ける。
そうだろうなぁと、叔父は息を吐く。
「これは、本来本人とその後見人のサインがあって成立するものなのだがね。
おそらくあのバカどもはそんな事も知らなかったのだろう。君の筆跡に似せる努力もせずに、提出したらしい。もちろん受け取る貴族院はそこまで調べないから簡単に受理されてしまったのだろうが、いわばこれは偽造文書になるわけだ。そして筆跡鑑定でそれが証明された」
先ほどの紙ともう一枚、封筒から出した筆跡鑑定証と書かれた紙を並べられて、ようやく叔父が何がいいたいのか分かった。
これはつまり、
「君たちの婚約解消は無効だ。
私は貴族院を取り仕切る立場上、これを隠してはおけないし、ブラッド君も殿下のお側に仕えるものとして、不適切な文書に関わっていることは出来ないから訂正しないわけにはいかない」
目眩がした
つまりは
私と彼はまだ婚約状態なのだということだ。
「すぐに、新しい書類にサインします」
間髪入れず言った、私のその言葉に叔父が困ったように首を振る。
「我々もそう思ったのだが、彼はそれを拒んでいる」
「そんな!」
思いがけず悲痛な声になった。
そしてさらに参ったような叔父の言葉が追い討ちをかけた。
「それどころか、結婚の話を進めてくれとあちらは言っているんだが。」
やられた!即座にそう思った。
この数日彼とは、公式的な場でしか顔を合わせていなかった。
諦めたのかと思っていたのだが、まさかこんな、、、。
「嫌です!お断りください!」
駄々をこねる子どものように私は叫んだ。
「あちらが渋っている以上私にもなんとも」
しかし、困ったそぶりを見せる叔父も、恐らくグルであろう。
優しくて人の良さそうな彼はこう見えていても、侯爵の地位にいて、クセの多い貴族院のまとめ役の1人だ。
小娘ひとりなんぞ簡単に意のままにできる。
「叔母様!」
ずっと黙っている叔母を見る。彼女は先ほどから、辛そうに私をみている。
「ごめんなさいアーシャ。私も止めたのだけど、私達にはどうにも出来ないことだから」
私の手を取ると、叔母は申し訳なさそうに
「あと貴方が出来る事は、貴方自身が彼を説得するしかないのよ」
そう言った。
どういうことだ、と私が唖然としていると、
叔父が、私が入ってきた方ではない、サロンに続く方の扉を開けた。
そこには、いつものように背筋を伸ばして、射るような瞳でこちらを見ているブラッドが立っていた。
兄の訪問が落ち着いて数日。久しぶりにノードルフ侯爵邸の別邸に、なぜか予定を延期して逗留している叔母に会いにいくと、待っていたと言わんばかりに、叔父叔母に囲まれてそんな話をされた。
「唐突すぎやしませんか?私は妃殿下付きになったばかりですし、第一結婚をする気はないと」
「それが困った事になってしまってね」
抗議する私に、叔父がため息をつく
「これなんだが」
そう言って目の前に出されたのは、少し経年を感じる用紙だった。
覗き込むと
婚約破棄の承諾書である。
「見覚えは?」そう叔父に聞かれて素直に私は首を振った。
「ありません」
「そうだろうとも」
叔父が頷いてトントンと、指を指す。
「これは君とブラッドの婚約破棄の証明書だ。」
覗き込むと確かに、2人の氏名がそれぞれ違う筆跡で書いてある。
「書いた覚えは?」
そう叔父に聞かれて、私は首を捻る。
「ありませんけど?」
叔父が息を吐いた。
「トランかベルーナか、おそらくどちらかの筆跡だろうな。」
「あのこれは?」
意味が分からず私は首を捻る。
「提出文書の写しだ、ストラッド伯爵夫人からお借りした。
君の筆跡でないことはすでに調査に出して証明されている」
そう言った叔父は、一枚の封筒をテーブルに置いた。
「どういうことですか?」
まだ意味がわからない私は首を傾ける。
そうだろうなぁと、叔父は息を吐く。
「これは、本来本人とその後見人のサインがあって成立するものなのだがね。
おそらくあのバカどもはそんな事も知らなかったのだろう。君の筆跡に似せる努力もせずに、提出したらしい。もちろん受け取る貴族院はそこまで調べないから簡単に受理されてしまったのだろうが、いわばこれは偽造文書になるわけだ。そして筆跡鑑定でそれが証明された」
先ほどの紙ともう一枚、封筒から出した筆跡鑑定証と書かれた紙を並べられて、ようやく叔父が何がいいたいのか分かった。
これはつまり、
「君たちの婚約解消は無効だ。
私は貴族院を取り仕切る立場上、これを隠してはおけないし、ブラッド君も殿下のお側に仕えるものとして、不適切な文書に関わっていることは出来ないから訂正しないわけにはいかない」
目眩がした
つまりは
私と彼はまだ婚約状態なのだということだ。
「すぐに、新しい書類にサインします」
間髪入れず言った、私のその言葉に叔父が困ったように首を振る。
「我々もそう思ったのだが、彼はそれを拒んでいる」
「そんな!」
思いがけず悲痛な声になった。
そしてさらに参ったような叔父の言葉が追い討ちをかけた。
「それどころか、結婚の話を進めてくれとあちらは言っているんだが。」
やられた!即座にそう思った。
この数日彼とは、公式的な場でしか顔を合わせていなかった。
諦めたのかと思っていたのだが、まさかこんな、、、。
「嫌です!お断りください!」
駄々をこねる子どものように私は叫んだ。
「あちらが渋っている以上私にもなんとも」
しかし、困ったそぶりを見せる叔父も、恐らくグルであろう。
優しくて人の良さそうな彼はこう見えていても、侯爵の地位にいて、クセの多い貴族院のまとめ役の1人だ。
小娘ひとりなんぞ簡単に意のままにできる。
「叔母様!」
ずっと黙っている叔母を見る。彼女は先ほどから、辛そうに私をみている。
「ごめんなさいアーシャ。私も止めたのだけど、私達にはどうにも出来ないことだから」
私の手を取ると、叔母は申し訳なさそうに
「あと貴方が出来る事は、貴方自身が彼を説得するしかないのよ」
そう言った。
どういうことだ、と私が唖然としていると、
叔父が、私が入ってきた方ではない、サロンに続く方の扉を開けた。
そこには、いつものように背筋を伸ばして、射るような瞳でこちらを見ているブラッドが立っていた。