訳アリなの、ごめんなさい
自室に戻ると、リラがお茶を用意してくれた。

「ほんとにここのお庭は広大ね。」

そう言うと、リラも笑って肯定する。

流石に歩きやすい靴で、私に合わせた速度で歩いてもらっても、後半は疲労で足が痛んだ。


それをもろともせず、そのまま仕事に戻ったブラッドは、流石に鍛え方が違うと感心したものだ。
思えばピクニックに行って帰りに自分を背負って帰っていたくらいだ。私が知らないだけで昔から鍛えていたのかもしれない。


あれから、2人ともなんとなく変な緊張が溶けたのか、あまりギクシャクせずに話をすることができた。
それでもお互いどこか距離はあって、仕事以外の話をする気にはなれなかった。
それについては。大人の男女だ。仕方ないと思う。

それに、

彼にはもう新たな婚約者がいるはずだ。

幼馴染とはいえ、あまり近づきすぎるのは良くないだろう。





王太子の執務室に戻る。

「アリシア嬢のご案内、問題なく終了しました」

「ご苦労様!おかげで仕事が捗ったよ」

そう言いながら、彼の手にしているのはペンでも書類でもなく、ティーカップで。

繕いもする気が無いのかと、息を吐く。

「初めからそのおつもりだったのでしょう?」

「ははは、バレてた?やはりエドガーの演技が嘘くさかったんだな」  

「いえ殿下のやり方がわかりやすいだけです」
自分のせいにするなと、エドガーが突っ込む。

2人がいつものごとく言い合いを始めるのを尻目にため息を吐く。

だいたい、彼が急にアーシャの案内をするなんて言い出した頃から、おかしいとは思っていたのだ。

「私と彼女はもう終わっているんです。このような些事に殿下のお心を煩わせるわけには」

まいりません、と言い掛けた所で、殿下がこちらを真剣な顔で見る。


「何を言ってるんだ!
主君が結婚しないからとお前たちも独身ばかりじゃないか?これで俺も妃を娶るんだから、お前たちにも幸せになってもらわねばと」

「いや、完全に色ボケの考えですからね、殿下」

ザックリと事務官に突っ込まれ、殿下は「ハン!」と胸を張る。

「部下思いと言えエドガー!」

結局はふざけているのだこの人達は、と息を吐く。





「まぁ冗談はさておき、お前にも一応見せておくよ」

一頻り侍従でぎゃあぎゃあ言い会った後になって、殿下が一枚の紙をこちらに渡してくる。

なんだろうかと受け取って、中身をみて、眉を寄せる。


「調べさせたのですか?」



「まぁ身辺調査は必要だからな。」

悪びれない様子で殿下は笑う。


「色々複雑だな。彼女がこの年まで結婚もせず、王太子妃の世話役に志願したのも、こうした環境が関わっているのだろうな。もちろんお前との婚約の破棄も」

意味あり気に言われて、もう一度ため息を吐く。

「それはまた違う話だと思いますよ。」

単に自分の無精が彼女を心変わりさせてしまったのだ。

「さてどうかな、しかし、ますます興味が出てきたなアリシア嬢」

しかし、どうやら殿下には響かなかったらしい。

ニヤリと口元に笑みを貼り付けたまま、カップの中の紅茶を遊ばせている。
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