ありがとうを、君に
「…あのさぁ君、泣いてたでしょ」


開口一番に、この台詞。


「…そんなに、目腫れてますかね」


うん、と頷くお兄さん。

やだやだ恥ずかしい、知らないお兄さんに泣き顔見られるなんて!

穴があったら入りたいとは、このことだ。


「はは…みっともないですよね、男に振られて泣き腫らした顔を人様に晒して…」


「いや別にそんなことはないよ?泣きたい時は泣けばいいじゃん」


こういう時に泣いていいよと言われると、嫌でも泣けてくるものだ。

私は何かが堰を切ったように、あるいは5歳の少女に戻ったかのように大声を上げて泣いた。

お兄さんは、私の背中を軽く撫でてくれていた。

泣き止むまでに、これといった励ましの言葉や同情の言葉は無く、ただ背中をさすってくれていただけだった。

こんな見ず知らずの、ついさっき出会ったばかりの異性に慰めてもらうなんておかしな話は無い。

そう頭をよぎった瞬間、今度は笑いが込み上げてきた。
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