ありがとうを、君に
ナポレアーヌを出ると、楓人くんは言った。


「ここ、美味しかったでしょ!」


得意気に笑った顔がやはり少年かのように、なんとも可愛らしかった。


「すっごく美味しかった、良いお店教えてくれてありがとう!」


私がこう言うと、こころなしか楓人くんの顔が少し赤みを帯びた気がしたけど、たぶん気のせいだろう。

5月の夜は、まだまだ肌寒かった。


「風が冷たいなぁ…ちょっと薄着すぎたかも」


私が言うと、楓人くんは自分のジャケットを脱ぎながらこれ着る?と言ってきた。


「そういう意味で言ったんじゃないよ!大丈夫だから!」


なんだか急に恥ずかしくなった私は、咄嗟に断った。

気にしなくていいのに、とジャケットを着直す楓人くん。

綺麗な横顔だった。

話したことなくても気になる人って玲香が言うのも納得するほど、楓人くんは世間一般ではイケメンと言われる部類の人だ。

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