ありがとうを、君に
俺が病気ということなど露知らずな胡桃は、無邪気に『仕事頑張って』と言って笑った。

ニコリと笑う胡桃の顔が脳裏に浮かんだ。

ごめん胡桃、違うんだ、本当は。

さっきの電話の間に、何度口が滑りそうになったことか。

本当は弱音を吐いて全てさらけ出してしまいたい。

万が一にでもそんなことができたらどんなに楽だろうと、何度考えただろうか。

胡桃を悲しませたくない、気を遣わせたくない一心で隠しているが、果たしてこれが正解なのだろうか。

早い段階で病気だということを知っておいてもらった方が後々良いんじゃないか?

色々な考えが巡るが、病気を好きな子に自ら告白できるほど、俺は勇気を持ち合わせていなかった。

第一、まだ本気で好きだということすら伝えられていないのに。

今はまだ、友達という形で止まったままだ。この関係は進展させることができるのだろうか?

胡桃は俺の発言によく笑う。俺に対して悪い印象は持って無さそうだ。


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