ふたつの愛し方
ただいま。

玄関を開ければバタバタと、おかえり、と飛び付いてくる美和を受け止めて、抱き締めるのは、こうして出迎えてくれる時はいつものこと。


美和は花顔雪膚という、四字熟語がピッタリな綺麗さ。

この綺麗さと甘える時のふわふわした笑顔のギャップが、とても可愛いと思う。



「ご飯にする?一緒にお風呂?それとも私?」


「その選択肢なら、美和だな」


そう答えれば、顔を真っ赤に染めて見上げられる。

えっ?私って言うと思わなかった、と。


「一回言って見たかったの!」


はぁ……可愛すぎるだろ。

今すぐにキスをして、抱き締めたい気持ちを堪えて、頭にポンっと手を置いて、、


「美和は後で味わうよ。腹減ってるから、先にご飯な」


うん!と、まだ真っ赤に染めた顔のまま、もうっ……と言いながらーー、

ワンルームのキッチンとリビングのドアへ歩いて行く、背中を見つめながら愛おしさが込み上げてくる。


今までー…こんなに愛おしいなんて感情を彼女という存在に、抱いたことはないな。

俺の心は、すっかり美和に満たされている。


ご飯を食べた後、片付けは一緒に済ませてーー麻友の話をした。


「俺はもう何とも思ってないから、そこは安心していい」


「うん、信じてる。でもね……やっぱり俊也はモテるんだね」


「あのな……そう言われたら美和だって……渡瀬さんに誘われてるんだろ?」


「知ってたの?俊也が居るって断ってるよ。それに渡瀬さんは妻帯者だからね」


そういや……そうだったな。

結婚してるくせに、人の女を誘うとはいい度胸だ。

邪な気持ちがなかったとしても、傷つけたら許さない。

嫉妬と英介に負けないくらいの独占欲ってやつか……

完全に満たされたなんてもんじゃない。

捕らわれたな。


「とりあえず、釘は指しといたけど何か言われたら言うんだぞ?」


「わかった。俊也も気をつけてよ?」


ああ、と頷いて、一緒に風呂に入って美和を味わわせてくれ。



※花顔雪膚(かがんせっぷ)=花のように美しく、雪のように白い肌の女性を表現した四字熟語。
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