ふたつの愛し方
《麻友》


3年前の夏ー…ー私は大好きだった彼を振った。

何度目かわからない告白で漸く、付き合えるようになったのに。

私ではない誰かを見ている。

時々、寝言で名前を呼んでいた子。

直ぐにわかったよ。

ベテランの長年いる看護師さんに訊けば、中村 朱希。

彼とも北河先生とも幼なじみ。

今は、ボストンの病院にいるらしい。

近々、帰って来るって噂も流れているみたい。

だったら私は……もう彼の側に居たら余計に辛くなる。

帰って来る前に離れよう。


実家の田舎から程近い、小さな診療所の看護師として働こうと決めて、頑張った3年。

忘れられなかったの、無理だったの。

私には、いい男過ぎた。

甘いマスクに、よく通る男らしい声に、たまに見せる優しさ。

患者さんに親身な、腕のいい医師。


戻って来て、彼女がいるって言われて後悔したの。

彼が、彼女を心から好きなんだってわかったから何としても、しがみついて居ればよかったって。


どうやら、彼女は薬局の薬剤師兼臨床検査士の近藤 美和。

私が病院を去る半年前から、有名な美人な子ね。


どうやって彼を落としたのか、本気にさせたのか知りたい。

あれだけ中村さんを、好きだった彼の心ごと手にいれた攻略法を。


もう一度だけ、俊也くんに触れたい。

心がないなら温もりだけでも構わないから。

多少の事で、切り捨てたりしないよ。

優しい俊也くんなら。
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