ふたつの愛し方
テラスで俊也と別れて、仮眠室に行くと。

2つ並んだ奥のベッドに、英介が寝転んでいて、額に腕を乗せて目を閉じている。

そっとカーテンを閉めようとすると、ゆっくり瞳を開けた英介と、瞳が重なった。


朱希……お疲れ。

ごめん、起こした?

そう訊ねると、いや……寝てはなかった。


「身体が怠くてな……横になってただけだ」


「……怠いのは……私も……」



きっと昨日のせいだ。

呼び出しがなければ……また夢の中だったかもしれない。


こっち来いよ、と自分の隣をポンポン叩く英介に、誰か来たら。


「来ねぇよ……こんな時間に」


でも……と渋る私の腕を引かれて、きゃっと声を出すと、英介の腕がしっかりと抱き止めてくれて。

仕方なく、クロックスを脱いで足を伸ばすと、抱き締め直されてしまう。


「俺が思ってた通りのスピードだった。もう……俺のオペの時に隣に立つのは……朱希だけだな」


胸に顔を埋めて頷くと笑いながら、腕を上げたな。

俊也も言ってくれたよ、と言うと。

アイツ見てたのか……と、腕の力がほんの少し強くなって。


「先を越されたな……俊也に」


えっ……?と呟くと、俊也より先に言いたかった。

表情は見えないけれど、どういう気持ちなの?

嫉妬って勝手に思っていいの?

訊きたいのに……訊けない。

だから……小さく頷く。

ありがとう、と。


そのまま、お互いに何も話さないまま、温もりを分け合うように抱き合っていた。

16:50にセットされた、英介専用コールが鳴るまで。


「英介……鳴ってるよ?時間だよ?」


背中に回した手で背中を叩く。

腕を緩めた英介を見上げると、私の額の前髪に指先が触れて、唇が落とされる。


身体を仰向けにして、電話のアラームを止めた英介の腕に頭を乗せたまま、私も仰向けになって、身体を起こして、

ベッドに座ったまま髪を結ぶと、まだ寝転んだままの英介の指先が首筋に触れる。

身体がビクッと跳ねたのを、弱いよな、と可笑しそうに言った英介に、

やめてよ、今は。


「……したくなる?」


「ならないけど……ドキッとする」


本当は……したくなる。


ふーん……と、まるでわかっているかのように笑った英介に、顔だけ向けると、赤いぞ。


誰のせいよ!

思いっきり、お腹を叩くと。


「今日、腹が筋肉痛なんだよ。誰かさんが激しいから」


「……誰かさんも激しかったでしょ!私も筋肉痛よ」


起き上がった英介は、私の髪にキスをしたかと思うと、帰ってからな、と唇に人差し指を当ててくる。


艶っぽい瞳で言うから、心臓に悪い。
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