ふたつの愛し方
Episode:18
《俊也》


俺が美和に惚れた理由を麻友が聞いたところで、麻友に靡くわけじゃないんだけどな。

本当に、頭を悩ませてくれる。

そうしてしまったのは俺なんだろうけど……心底、面倒な厄介な女。

まだ何かを美和に言うだけなら、目を瞑ってやるけれど、もし行動で美和を傷つけたら容赦はしない。

優しいから許してくれるなんて……思ってたら大間違いだぞ。


朱希以外で俺が、はじめて守りたいと。

心から愛しいと想った女のためなら、俺にはないと思っていたのに、冷酷になれるんだよ。


面倒なことは、早急に終わらせようと内線で麻友を院長室に呼び出して、俺も院長室へ行くか。



「麻友、俺が美和に惚れた理由を知りたいんだって?」


「……近藤さんから聞いたの?」


「聞いたよ。教えてやるよ」


まず、さっき医局で言ったこと。

遠慮なく甘えてくる素直さと可愛さ。

ふわふわした俺にしか見せない笑顔。

あとは、と言い掛けて……すでに考えたら切りがないことに気付いて、まだ聞くか?

もういい、と下を向いた麻友に、、、


「諦めてくれるなら、1つだけ望みを訊いてやる」


「……デートした場所へ行きたい……」


「行ったら諦めてくれると誓えるか?」


誓うわ、と僅かに瞳が揺らいだ。

納得してない表情。

だったら、却下だ。

その望みは叶えてやらない、と答えれば、どうして?


「心から諦めるって気がないからだ。何か企んでるだろ?」


「……俊也の人の心を見抜く力はやっぱり本物ね……諦める気はない。俊也が私の所へ戻って来るまで」


そうか。

これが俺が麻友を変えた本性か。

言葉で通じないなら、実力行使に出るしかないな。

面倒だけど、英介のやり方を使わせてもらう。

美和、ごめんな。

守るためだ、傷つけないためだ。

ちゃんと話すから許してくれ。


「わかった。戻ってやるよ。但し、期間は1ヶ月。その間に麻友を俺が好きにならなければ切り捨てる。どうする?」


「いいわ。その代わり、近藤さんの元へは帰らないでね。私の部屋に帰って来て」


一緒に住んでるのを知っているのか……厄介だが、自分が言い出したことだからな。

わかった、と。


「美和とも話がしたい、荷物も取りに行きたい。3日間だけ時間をもらう。いいな?」


構わないわ、と。

楽しみ、と笑顔で、麻友は院長室を出て行った。


盛大な溜め息が、肩を揺らして静かな空間に響いた。
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