ふたつの愛し方
麻友の部屋へ帰るようになって1週間ーーー。

少しでも一緒な時間を減らそうと、わざと残しておいた仕事に没頭した。


8階の仮眠室で寝ようとしても、なかなか寝付けない。

シャワーを浴びても、いつもと違う身に付ける物の匂いが落ち着かない。

せめて仕事中だけは美和と同じ、落ち着ける匂いがいい。

逢える口実になるなら、持ってきてもらうか。

逢いたいのは俺の方かもしれない。

田中に薬局へ行く用事を押し付けて、美和に渡してくれ、とメモ紙を渡した。



麻友にはキスだけは許しているが、ただ触れるだけの味気ないキス。

それでも美和の唇がいい。

理性が効くくらいのキスでいい。

あとは、美和の温もりを確かめたい。

抱き締めたい。

ふわふわした笑顔が見たい。


明日、逢えるなら……触れられるなら2日ぶりに、日勤の定時時間に病院を出て麻友の部屋へ帰った。


おかえり、と抱きついてくる麻友を抱き締めることもせず、ただいま、と腕を解いて、1DKの部屋の絨毯の上に腰を降ろしてベッドに背を預ける。


ご飯は?と聞かれて、食べるよ、と答えると、テーブルに温め直した飯が並べられる。

俺の方が上手だからと、休みが重なった日は一緒に作るようになって、俺の好みの味付けにしてくれた、美和の飯の方がよっぽど旨い。

1年間は食べていたはずなんだけどな。

だったら……仕方ない。


「明後日は夜勤だから、飯を作ってやるよ」


「嬉しい!俊也くんのご飯、3年ぶりだから楽しみ!」


横から抱き付いてくる麻友を横目に見て、食べづらい、と冷めた声で言うと、ごめん、と離れてくれたけど。

仕方ないとはいえ、喜ばれると不本意だ。

まあ……俺が作ったなら、美和の飯を食べてる気になるかもな。


お風呂に入って少しの間ーー今日ね、とテレビを見ながら話し掛けてくる、麻友の話を聴くのは苦痛だ。

我慢はしているが、肩に凭れかかってくるから。

適当に相槌を打って、適当に返す。

美和となら、こんな時間さえも楽しいと幸せだと思えるんだけどな。
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