ふたつの愛し方
《美和》


“明日14時。院長室で待ってる。下着とインナーのTシャツとタオル数枚、よろしく”

田中先生から渡されたメモ紙に、男らしいけれど綺麗な字でそう書いてあって、思わず顔が綻んでいる。

それを見られて、、、

あんまり帰らずに病院に泊まってるみたいですよ、と田中先生が教えてくれる。


無理してるんだろうな、と溜め息を漏らすと、愛されてる証拠ですよ。


「少しでも一緒に居る時間を減らして、近藤さんが安心するようにしてるんじゃないですか。明日は、僅かな時間でも愛されて下さい。近藤さんの笑顔が大好きだって言ってましたよ。見せてあげて下さい」


田中先生の言葉に溢れそうになった涙を、下唇を噛んで堪えて。

堪えるな、と。

泣いていい、と。

その唇は俺のだから噛むなって言ってくれた、何時かの俊也の言葉を思い出したけれど……

俊也の前以外で、泣きたくないよ。

だから今は許して。


帰ってからも、何度も俊也の文字を眺めて下唇を噛んで、涙を堪えて眠っていたせいで……翌朝ーー下唇は少しだけ切れていた。


待ちに待った14時ぴったりにノックして、どうぞ、と大好きな声に促されてーー…扉を開けた瞬間に視線が絡まって、腕を伸ばしてくれている俊也の胸に飛び込むと、苦しいくらいに抱き締めてくれる。


逢いたかった、って。

美和に逢えない1週間は……生きた心地がしなかった、って。

紙袋を下に落とした事にも気付かずに、俊也の背中に腕を回して抱き締め返していた。

とっても、とっても嬉しいことを伝えてくれたから。
< 115 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop