ふたつの愛し方
《俊也》


予想外の麻友の行動と言葉に、完全に俺の少しだけ与えてあげた、優しさは失くなった。

流された涙に触れる気にもならない。

そうやって泣いて、自分の浅はかさを後悔したらいい。

身体だけで心を奪えるなんて甘いんだよ。

そもそも、それは美和が俺に気付かせてくれたこと。


終わりだ、と自分でも驚く程……冷たい声を出してすぐ、倒れ込んで来た麻友の身体を引き離そうとした時ー……。

俺のスマホからの音に、手に取って確認するとー…、


“半月の間の短い時間で、お弁当を作っても。満たされない。俊也が居ない部屋は無機質で……寂しくて広すぎる。もう限界……1ヶ月も我慢出来なくて……ごめんなさい。俊也に逢いたいよ……逢いたいよ…”


美和からの苦痛とも悲痛とも取れるLINEに、直ぐにでも帰って抱き締めてやらないと……

きっと、また泣けずに堪えて堪えて……美和の心が壊れる。


靴を履いた俺に、彼女の所へ?と訊かれて、今はこれ以上は話す気にもならない。

振り返って、バイバイ。


もう俺は諦めろ。

美和には近づくな、と最後に終わりの言葉に込めた。


3階建てのアパートの階段を掛け降りて、歩いて15分の距離を駆けていて、
冬間近の冷たくなった夜風が肌を刺すけれど、額には汗が滲んでいて…ー…


女のために、俺がこんなに必死に走ったのはいつぶりだろう。

高校生の時、待ち合わせ場所へなかなか来ない、朱希を英介と探しに行った時以来だな、とふと思い出していた。


自分のマンションのエレベーターで上がった息を整えて、大きく深呼吸をしても……

早く早く……抱き締めてやらないと……気ばかりが焦って数秒さえも、6階の角部屋までの距離さえも長く感じていた。
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