ふたつの愛し方
何事もなく、麻友とも話をしないまま半月が過ぎた頃ーーー。

けじめを付けようと、麻友を院長室に呼び出した。


「麻友、この病院で働きたい?」


もし働きたいと言うのなら、美和には何もしないと言うのなら、働かせてあげよう、と決めていた。

俺の出来る限りの優しさだ。

どうやら、俺は完全に冷酷にはなれなかったみたいだな。


「……働きたい。この病院の人達が好きだから」


「そうか、わかった。切り捨てることはしない。ただし、美和には危害は加えるな」


「しないよ。危害を加えて良いことはないから」


「よしっ!それなら、産休明けの看護師が戻って来ても継続して働いてくれ。あと俺なんかより 、いい男を見つけろ」


そのつもり、と笑った麻友は持っていた大きな紙袋を差し出した。

荷物、と。

麻友の方へ、椅子から立ち上がって受け取ると、ありがとう、と手を出した。

俺こそ好きになってくれてありがとう、とその手を握ると、暫く握られたまま瞳を合わせていて、大好きだった、と。

バイバイ、と手を離した。

背中を向けた麻友の小さな背中に、これならは看護師としてよろしく。

背中を向けたまま、こちらこそ。

振り返ることもせずに、院長室を出て行った。


最初から、こうやって話し合えば良かったのかもしれない。

だけど、俺が麻友にしたことを後悔はしていない。

美和には辛くて、苦しい日々を過ごさせたけれど、思っていたよりも弱い美和を知れた。

改めて、心も全てを守りたいと思った。

きっと……これで良かったんだ。


今日は早く帰って美和に報告して、明日は久しぶりの休みだから、朝まで腕の中から離さない。
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