ふたつの愛し方
病院に着いて、英介と瞳を合わせて息を呑んだ。

救命の廊下に溢れる人だかり。

ハンカチを口に当てて、咳き込む人。

腕や足に軽い火傷をしていて、五十嵐先生と看護師さんに処置をされている人。


北河先生!?

中村さん!?


私たちに気付いた五十嵐先生が、近くのビルでの火災です、と。

救命の中に高橋先生が居ます、と教えてくれて人だかりを掻き分けて、救命の中へ急ぐ。


「やっと来たか……とりあえず荷物を置いたら、直ぐに来てくれ。お前たちじゃないと見れない患者がいる」


俊也の指示に救命の医局に鞄を置いて、その患者さんの所へ。


38週の正産期に入った妊婦さんだ。

既に立花さんが付き添っていてくれた。

意識レベルはハッキリしているけれど、お腹の赤ちゃんは……

英介は、私にガウンとマスクを付けられながら、エコー、と指示を出す。

私も身に付けて、エコーのモニターを見守る。

元気に動いていて、心臓の音もしっかりしているから一先ずは……安心。

陣痛も起き始めていてーーー英介の下した判断は、ここで取り上げる。


ワンピースを切り、タオルを掛ける。

立花さんの声に合わせて妊婦さんは、息んで、、、息んで、、、

英介は軽い火傷のある腕の処置に、私と取り掛かる。

その処置が終わった直後ーー…あと少し息んで、と立花さんが妊婦さんに声を掛けて数分後ーー、

慌ただしい、人だかりの救命の中で元気な産声が響いた。

処置をしている医者も看護師も、手を止めることなく笑みを浮かべている。

良かった………事故に巻き込まれながらも無事に産まれてきてくれた、元気な男の子。


翌日、英介とその妊婦さんの所へ行くと、、、

主人とも相談したんですが……この子の名前は……英希(ひでき)にしました、と。

お二人の名前から一字ずつ、と。


嬉しいのと照れ臭いのとが入り交じって……英介と瞳を合わせて、微笑み合っていた。


あの状況で、英介が運んでいたら間に合わないと決断したから。

私が咄嗟に、子宮内の出血に気付けたから。

やっぱり、海外での出産の経験は医者と看護師の私たちの糧になったね。
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