ふたつの愛し方
患者さんの横に立った英介は、その隣に寄り添うように立つと………

朱希。

大きく首を縦に振ると、頷き返してくれる。

何を意味しているのかは、わからない。

また少し震える手の震えも、英介が呼んでくれると止まっている。




救急搬送されて、早急に検査をしての腹腔鏡下虫垂切除術。

所謂、盲腸。

時々、英介の手元を見つつ、モニター画面に集中していると、

思わず、あっ!と手術中にも関わらず。


「思ってたより炎症が酷いな……至急、開腹する!」


稀にこういう事例がある。

英介の指示が的確に、助手の先生と外回り看護師に飛ぶ。

開腹、と英介が言った時、反射的に私の手はメスに添えられていて、

英介に言われる前に、横目で私を見ながら出された右手にメスを置くと。


さすがだな、朱希。

ポツリと呟いた。


開腹する手元から視線を外すことなく、次に必要とする器具に手を添えて、こんな時に褒められて、唇が綻んでしまっていた。


最初、器械出しを任された時はこんな余裕なんてなくて、頭の中で一呼吸してから考えていたけれど、

今は一呼吸しなくても手順のイメージが、頭の中に浮かんで、咄嗟に判断できるようになった。

手が震えて、床に落としてしまうこともあったり。

器具を間違えたり、数え切れないミスをして今がある。


それも、2人と一緒に立場は違っても、同じ医療現場に立ちたかったから。

俊也と英介が近くにいてくれて、離れていても気にかけて、いつでも近くにいるよと思わせてくれたから。

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