ふたつの愛し方
急性心筋梗塞、カテーテル手術。

今日、3回目。

朱希、と呼ばれて英介の横に立つ。

どんな手術でも変わらないスピードと、迷いのない手捌き。

私も反射的に、手捌きに合わせて反応する。

そして、終了後に英介と瞳を合わせて頷き合うのは言葉に出さない、お疲れの英介と私の合図。


今日はもう、このまま英介の横に立つ事はないと思っていた。


ーーー北河先生!中村さん!


膵臓がんの患者さんの緊急オペだ!

明後日の予定をしていたけれど、これ以上待てば拡がる可能性がある。


日勤の勤務時間と交代の時に、俊也に呼ばれたから。


何年ぶりだろう、手術室に英介と俊也と立つのは。

2人と瞳を合わせて頷き合って、俊也も朱希と呼んでくれる。

大きく頷いてから、深呼吸をする。


英介の指示を仰がなくても、俊也は第一助手の役目をこなしていて、二人の息はしっかり合っていて、言葉なんて必要ない。


この2人が外科医として、この病院に居れば怖いものなんてない、と。

どんな困難な症例でもこなせてしまうんじゃないか、と思えてくる。


その傍らには、私が居たい。

影ながら2人をサポートしたい。


俊也と英介が外科医としてのプライドを持っているように、私も手術室看護師としてのプライドを持って。


俺たちには、絶対的に朱希が必要だ、と言ってもらえるような看護師になる。


何年かぶりに、3人で立った手術室で決意を新たに。


最後の器具を置いた俊也と英介と、瞳を合わせて頷き合って。

微笑み合って、お疲れさま。

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