ふたつの愛し方
静かな部屋に鳴り響く着信音。

俺のじゃねぇから朱希のだな。

微睡みの中で、腕の中で眠る朱希の髪を撫でて、朱希と耳元で囁く。


「……んー……英介……?」


胸に顔を擦り寄せてくる寝起きの、この仕草が堪らなく可愛いんだよな。

離したくなくなる。

それをいつも俺は打ち消すように、朱希の額にキスをする。


「電話、鳴ってたぞ。俊也だろ?」


「……もう……そんな時間?」


「そうだな……8時だ」


サイドテーブルのスマホに手を伸ばして、時間を確認して教えると、ゆっくりと起き上がって、私のスマホ、と呟いた朱希に渡す。

かけ直してやれよ?

頷いた朱希は、俊也にかけ直して。


「うん、ごめんね……寝てた…」


「うん、用意したら行くね。英介も連れてくね」


電話を切った朱希を、起き上がって後ろから抱き締めると。

行くんでしょ?

行くよ、と答えて髪にキスをすると、振り返った朱希から唇にキスをくれた。

はぁ……可愛い。

俺からキスを返すと、額が重なる。

俊也には悪いが……俊也との約束がなければな………

でも、朱希は3人の時間は楽しそうで、俺も大切な時間だ。


腕の中から解放すると、ベッドから降りて着替える朱希の傍らで俺も着替えて、朱希の少し乱れた髪を直してやる。

擽ったそうにする朱希も……可愛い。


「置いてけよ。明日は朱希も休みだろ?」


「うん……でも……また一緒に寝てくれるの?」


「ああ……一緒に寝よう」


嬉しそうに笑う朱希の首に手を添えて、触れるだけのキスを。



鞄もいらねぇし、化粧もしなくてよくね?

そうだね。スマホだけでいいよね。



俊也のマンションのエントランスまで、俺から手を繋いでいた。

離したくねぇんだ、手の温もりさえも。

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