ふたつの愛し方
俊也のご飯を食べてから、話はついつい仕事の話になってしまう。

その話の途中で、真ん中に座っていた朱希の身体が傾いて、咄嗟に受け止める。


「……寝てる」


「疲れたんだろ。緊急呼び出しも含めたら1日に4つのオペだったんだから」


「そうだな。少し寝かせてやるか」


ベッドまで運んでやってくれ、と立ち上がった俊也がベッドルームのドアを開けてくれて、朱希をベッドに降ろすと俊也が布団を掛ける。


リビングに戻ってからーー。


「なぁ……俊也。俺が朱希の側に居られなくなったら……朱希の事を頼めるか?」


手放したくない気持ちは変わらない。

だけど……急に居れなくなる可能性に備えて、俊也に朱希を任せられるなら、朱希に取ったらそれがいい。


「どういう意味だ?」


「俺と朱希は……身体の関係があるんだ……一度じゃない、今も」


俊也の顔が一気に険しくなる。

お前……と掴み掛かりそうな勢いをグッと堪えているのが伝わってくる。

さらに、事実を言えば殴られても仕方ない。

最低なことをしているのは俺だから、と腹を括って。


「……聞いてくれ」



俺には大学の時に、将来を約束された女がいる。

その時には……朱希の俺に対する気持ちに気づいていたんだが、俺も次第に女として惹かれていた。

ボストンへ行ったのは朱希をほっとけなかったからで、甘えてくる朱希を受け入れて、朱希を抱いた。

最低なのはわかってる。

それでも、いつかは手放さなければいけないと思ってた。

だけど昨日、朱希が寝言で俺を好きだって、はじめて口にされちまったら……無理なんだが……

急に、何が起こるかわからない。

ニューヨークの病院で医者をしてる約束された女が突然、戻ってくる可能性もある。

その時は………朱希の側に居てやってほしい。

俺が、朱希に全てを整理して気持ちを伝えるまでに、俊也を好きになったなら俺は身を引く。
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