ふたつの愛し方
「……勝手だな……お前は……朱希のことで頭を下げられたら……殴れねぇよ」


大きな溜め息をついて、俊也はそう言って苦笑いをした。

そして、俺も朱希を好きなんだ、と。


「朱希が戻って来たら、好きだと言うつもりだった。でも、朱希は英介を好きだって気付いてしまって、朱希に確かめて諦めようと腹を括った。3人の時間も大切で、失くなるのは寂しいしな」


そうか……と言った俺の背中を思いっきり叩くと、これで勘弁してやる。


「その時は、朱希のことは任せろ。ただし……条件がある」


その条件とは、朱希をその時が来るまで守ること。

大切にすること。

3人の時間も作ること、だった。


「わかった、ありがとな」


「お前の為じゃない、朱希の為だ」


わかってる、と答えると。

片付けを手伝え。


空いた皿やグラスをキッチンに運んで、片付けを済ませてから、俊也と朱希を起こしに行くけれど、起きる様子はなく。


「背中に、背負わせてくれ」


俊也が朱希を、ベッドに座った俺の背中に背負わせてくれると、

英介……と呟いて、首に腕を回した。


「……寝言でも……英介って……敵わねぇな……」


頼むぞ、と俊也は寂しそうに朱希の頭を撫でた。


「……すまない」


謝るなよ、余計に寂しくなる。


俊也の心から寂しそうな言葉に、何も返せずに、玄関のドアを開けてくれた俊也に、おやすみ。


「明日は俺と朱希は休みだけど、何かあったら連絡くれ」


「ああ、わかった。英介と朱希はセットだからな。おやすみ」



また朱希が、英介、と呟く。

思わず笑ってしまう。

どんな夢を見てんだよ。

どれだけ、こんな最低な俺を好きなんだよ。

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