ふたつの愛し方
「俊也?今日は夜勤だね」


珍しく英介と夜勤の日、ロッカールーム前で日勤を終えた朱希に背中を叩かれる。

お疲れ、と振り返ると、頑張ってね。

この大好きな笑顔を見れたら頑張れるよ。


「今日は何もなかったか?大丈夫だったか?」


「うん……大丈夫だったよ」


朱希は数日前に退院した、 急性虫垂炎の患者の柴田さんに誘われていて。

医療機器メーカーの営業だったらしい柴田さんは、何かと理由をつけては朱希の居る救命に顔を出している。

英介と気にかけるのが日課になっていた。


「気をつけて帰れよ」


頭を撫でると、また笑顔をくれる。


ロッカールームで着替えを済ませて、ナースステーションで申し送りをしていると、遅れた、と英介が息を切らして駆け込んでくる。


申し送りが終わってから、医局に戻る途中に訊くと、


「従業員裏口の影に柴田さんが見えたから、朱希をマンションまで送ってきた」


盛大な溜め息をついて、待ち伏せか。

しつこいな、と口に出すと。

そろそろヤバいかもな。

英介の言葉に、どうする?


「梓のスマホにGPSのアプリを登録させるか。もちろん俺達もだ」


「そうだな……明日、朱希をロッカールーム前で捕まえるよ」



その日は、緊急手術を要する急患もないと思っていた。

しかしーーー深夜の玉突き事故で、数名の重軽傷者が運ばれて来て、救命で英介と治療している最中にも、患者さんが運ばれて来る。


CT検査を指示すると、くも膜下出血。


英介と瞳が合う。

お前も来いってことか。

そう理解して救命に後は任せて、手術室の手配を依頼して、中村さんを呼んでくれ。


さすがに、夜中は大丈夫だろう。


だが、朱希を呼び出してーー血管造影検査を終えて、手術開始の直前に朱希は手術室に駆け込んで来た。


遅れました、と何事もなかったように平然と。

足を引きずっているように見える、腕にも擦り傷があるくせに。


英介も気づいたらしく、出来るか?

はい!

力強く頷いて英介を見上げて頷いた朱希に、朱希、と英介が呟く。


これは、後で訊けば、今でも手が震える朱希を落ち着かせるために、英介が必ずしている事らしい。


とりあえず今は、目の前の患者さんを助けてからだ。

終わったら、ちゃんと聞くから。

治療するからな。
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