ふたつの愛し方
英介は朱希を起こし慣れてるようで。

耳元で、朱希、と頭を撫でると。

ゆっくり瞼を開けた朱希に、起きた?

頷いた朱希は英介に、起こして、と手を伸ばすと、身体を支えて起き上がらせていた。

英介の声も仕草も、もの凄く優しい。




申し送りを終えてから、手術室に寄って、林さんに朱希の足の事を説明して、医局に戻る。


「林さんには話しておいた。気にかけるように、他の看護師にも伝えとくって」


医局に戻っていた英介に話すと、わかった。

ところで英介は帰らないのか?と訊くと、お前こそ。


「仕事が残ってるんだよ」


「俺もだ」


医者の仕事には事務作業もある。

電子カルテ整理は看護師に任せているが、手術になった経緯や術式、治療経過を纏めるのは医者の仕事。

英介もまだ、その残ってる仕事が残っていて、深夜の手術後の容態も主治医として気になるんだろう。

たぶん、俺もだけど……朱希の事も心配してる。


俺も英介も過保護なのはわかってる。

それだけ、大切な存在ってこと。


その後、英介は術後の容態を見に救命に行った。

俺は、医局のソファーで横になる。

他の医者に、少し寝かせてくれ、と。


俺が寝ていると思ったのか、朱希の事を田中先生が研修医と噂していた。

可愛いだとか……俺と英介が羨ましいとか。


確かに、朱希は可愛い顔で30歳を過ぎて居るようには見えない。

華奢だけどスタイルはいいと思う。

そんな上部だけの朱希を見れば、好きになる奴はいるだろう。

朱希は、そういう所は鈍感だけど。
< 29 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop