ふたつの愛し方
英介が、日本に帰った1年後ーーー。

学会でニューヨークに来ていた英介に呼び出されて、離れていた期間を埋めるように抱き合って、


「誰にもあげてない?」


「信用ねぇな……俺は」


少しだけ切なそうに言った英介に、自分でも驚くくらい冷静に、女がほっとかないでしょ?


「……まぁな……けど……あげてねぇよ」


そう、と。

ほっとかないのは否定しないんだと思いつつ、呑み込んで。

朱希は?と訊いた英介に、あげてないよ。

誘われたけど、と。


誰に?って冷静に訊く英介の横顔からは、何の感情も読み取れない。


「アレクにね。飲みに行く度に」


「あいつか……朱希を気に入ってたからな」


英介も知っている同僚のアレク。

腕は確かな外科医で、やたらと英介にライバル視していた。

やっぱり私は気に入られてたんだ、と気づいたのは英介が日本に帰ってから。

日勤が同じ日は、お決まりのように誘われて断り続けていたんだけど……


「戻って来いよ。そろそろ、断り続けるのも限界だろ?」


私の心を汲んでくれたのか、英介の誘いに、戻るよ。


俊也も朱希に会いたがってる。

英介は?と訊きたくても、その言葉は出てこなかった。


半年後に、私は日本に。

北河総合病院に戻った。

手術室看護師として。

久しぶりに見る顔ぶれの看護師の面々も、新しい顔ぶれの面々も私を受け入れてくれた。

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