ふたつの愛し方
お昼の休憩に食堂へ行くと、帰ったと思っていた俊也がいる。


お疲れさま、と声を掛けると。

お疲れ、と返してくれた俊也の向かいに座る。


「まだ残ってたんだね?」


「うん、事務作業が終わらなくてな」


「……そっか。お昼食べたら帰るの?」


「帰ってゆっくりする時間はないな……今日も夜勤だからな」


俊也は、たまに心配になるくらいゆっくり休まない時がある。

8階にあるシャワー室でシャワーを浴びて8階で、ときどき3階で仮眠しているんだよね。


「大丈夫?」


「大丈夫だよ。俺の心配より自分の怪我の心配しろよ」


「……これくらい大丈夫。ここに来る前に英介が湿布も替えてくれたし。それに今日は静か過ぎて、定時には帰れそうだから」


そう、今日は怖いくらい静かなのだ。

オペも休みの日で、急患もなければ急変する患者さんも今の所いない。

そんな穏やかな日があるのは良いことなんだろうけど。


「……そうか。英介もまだ残ってたんだな。アイツは明日、日勤だから定時に帰れそうなら一緒に帰れ」


「わかった。二人とも過保護だね……ボストンで護身術を身に付けたから、多少は大丈夫なんだけどな」


そんなもん身に付けたのか?と俊也が、ご飯を食べながら笑うから。


だって、あっちは銃が当たり前なんだよ。


そうだな、それくらい必要か。


「でもな……今の足で護身術を身に付けたって言われても説得力ねぇぞ。大人しく言うこと聞いとけよ!」


いいな?と、俊也の腕が伸びてきて頭をポンポン撫でる。


言われてみれば、女の私が男性の力に片足を踏ん張れない状態で敵うわけないよね。


素直に、わかった、と答えると、満足気に俊也は笑ってくれた。


「ねぇ……私ね……俊也の前では泣けるのに、英介の前ではあんまり泣けないんだ……」


答えはわかってる。

英介の前で泣いたら、自分の想いが溢れ出してしまうから。

まだ素直には言えないから。


「だったら……泣きたい時は俺の胸に飛び込んで来い」


うん、と頷くと、その代わり。

英介の前で泣ける日が来るまでは、俺以外の男に泣き顔は見せるなよ。


そんなの……そんなの……当たり前じゃない。

泣き顔なんて恥ずかしい顔は、俊也にしか見せられない。

なんてのは言えずに………わかった、と頷く。



俊哉は優しい。

どんな私でも受け止めてくれる。

英介との関係を知ってるなんて、この時はまだ知らない私は、知ってしまっても受け止めてくれるんじゃないかと思っていた。

そんな心配は必要なかったんだね。

英介に聞いていた時点で、受け止めてくれてた。

弱いが故に英介に抱かれて甘えている私を。
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