ふたつの愛し方
従業員入り口を出るとーー、

朱希、と呼ばれて、振り返った先の英介が駆け寄って来てくれる。


私の前に背中を向けて蹲むと、乗れよ。

それはつまり……おんぶしてくれるってこと。

ありがと、と英介の首に腕を回して、飛び乗った。


広い背中に頬を擦り寄せると温かくて、嗅ぎ馴れた英介のフレグランスの柔軟剤の匂いがして、安心する。


「英介の……柔軟剤の匂い好きだよ」


「そうか……同じの使えば?」


「嫌だよ……使ったらずっと英介に抱かれてるみたいで……寂しくなる」


「寂しくなるか……そんなに俺の腕の中がいい?」


背中に頬をつけたまま小さく頷くと、英介が声を上げて笑った。

それが少しだけ、切なく聴こえたのは気のせいかな。


マンションの前まで来ると英介がなぜか立ち止まって、降りろ、と蹲むから私は渋々と背中から降りて、どうしたの?


「柴田さんがいる」


英介の背中から、マンションの前に視線を移すと、確かに柴田さんがキョロキョロと辺りを見回していた。

待ち伏せ……されてたんだ。

英介と帰って来てよかった。


「朱希、絶対に俺から離れるなよ」


わかった、と頷くと、マンション側に私を支えるように腰を抱いて、私の歩くスピードに合わせて、マンションへ歩き出す。


敢えて、英介は見えてない振りをしていたけれど……


北河先生!と声を掛けられて、横にいる私を撫で回すように見つめる。


「偶然じゃないですよね?」


私を見ていた柴田さんに、英介が鋭い瞳で訊ねると、はい。

素直に見つめたかと思うと、また私に視線を移すから、英介の腕にしがみつくように寄り添う。


「僕は……中村さんに一目惚れしたんです」


「だからって付き纏っていい理由にはならないですよね?こいつは迷惑してます。もう付き纏うのは止めてもらえますか?」


「……っ……わかりました。ひとつだけ聞かせて下さい?北河先生と高橋先生とは中村さんとどういう関係ですか?」


「同じマンションに住んでる、幼なじみですよ」


そうですか、すいません。

私に頭を下げて病院とは反対方向に歩いて行った。


大丈夫か?

英介は部屋まで送ると、支えながらソファーに座らせてくれた。


「うん、大丈夫。もう待ち伏せもされないかな?」


たぶんな、と頭を撫でてくれると、もう少しだけ警戒しとけよ。

次、朱希を待ち伏せてたり何かしたら許さねぇけどな。



それは、幼なじみとしてだよね?

訊けるはずもなく……ありがとう。

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