ふたつの愛し方
英介と激しく抱き合った日の、数日前ーーー。

夜勤の勤務前に、産婦人科に行って処方箋をもらって。

病院に隣接する薬局に来ていた。

ここには中学の時の同級生で唯一、私と英介の関係も、英介に対する想いも知っている親友の薬剤師=近藤 美和がいる。



「北河くんは、ちゃんと避妊してくれてるんでしょ?」


今の時間帯は、自分しか居ないことを良いことに、美和に問われる。


「してくれてるんだけど……英介をもっと感じたいって思っちゃったんだよね」


「なるほどね……北河くんには話したの?」


「うん、話した。これを呑むならって言ってくれた」


カウンター前の待ち合い椅子に座って、大きな溜め息を吐いて。

北河くんは、朱希を好きなんじゃないの?

まさか、と答える私に、鈍感ね。


「今まで、ちゃんと避妊してくれてて。朱希の我が儘を受け入れてくれたんだよ。大事にされてるってことでしょ?ただの欲求を満たすだけなら、北河くんなら朱希じゃなくてもいいはずよ」


美和の言う通り、英介なら困らない。

看護師さんだけじゃなく、患者さんからも誘われてるのを知ってる。

ボストンでも大学でも、逆ナンされてた。

一晩限りの相手なら、身体だけの相手なら不自由はしない。


「そうだけど……私を好きなんて言ってくれたことないよ?」


「言ってくれないなら、朱希から聞いたら?どう思ってるのって」


「俊也と3人の時間も大切だし……」


「そんなので高橋くんとの関係は崩れたりしないよ。小学校からずっと一緒な絆は、そう簡単には崩れないって私は思うけど」


俊也の懐の大きさは私が一番良くわかってる。

少なくなっても、3人の時間も失くならない、失くしたりしないって思える。

それなのに………何が不安なんだろう。

美和に言われて、俊也の懐の大きさに改めて気付かされたのに。


「そういえばだけど……北河くんが朱希にはっきりしない理由と関係あるのかは、わからないんだけど。ある噂を聞いたことあるのよ」


それはーーーー

許嫁がいて、海外の病院に今は勤務している、大学病院の理事長の娘さんだって噂。


妙に納得してる自分がいた。

総合病院の一人息子で次期、院長。

経営や跡取りを考えたら、許嫁の一人や二人居てもおかしくない。


「……関係あるでしょ……だけどね……英介がいつか許嫁と結婚するまで、今のまま居られるなら……それだけで充分。だって……どんなに足掻いたって仕方ないでしょ?」


「そうだけど……朱希は大丈夫?」


「大丈夫じゃないし……暫くは辛いかもね……」


だよね……と背中をポンポンしてくれた美和は、その時はね。


「高橋くんに甘えなよ。彼なら、北河くんを好きな朱希も受け入れてくれるよ」


そうだね、と頷くと。

あくまでも噂だから、いつか北河くんが話してくれるのを気にしないで、待ってなよ、と。

頭を撫でてくれて、頷いていた。


この時に、決めたんだ。

英介以外とは、身体を繋げないって。

例え、俊也でも。

私の身体も心も、この命が尽きるまで英介に捧げるって。


だからこそ。

英介が今だけでも、思わず言ってしまったことを、受け入れてくれた事が嬉しかった。
< 36 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop