ふたつの愛し方
喫茶店に英介と並んで入っただけで、女性数名のお客さんの視線が、私たちに集中する。

そりゃ……そうよね。

背は170cmちょっとで差ほど高いわけではないけれど。

濃い青の手術着の上下に白衣を羽織って、首には聴診器を掛けてる英介は言葉では表せないくらい、カッコいい。

何年も見てると、その姿が当たり前でカッコいいとは思わなくなるんだけど。

さっき受付に来てくれた時は、一瞬だけときめいていたんだよね。


ここの先生よね。カッコよくない?

本当に素敵ね!

そんな声が聴こえてくる。


だけど、私の母はそんな声を気にする素振りなんてない。


「あらっ!英介くん?いつぶり?」


「お久しぶりです。たぶん……高校の時以来ですね」


「そんなに会ってなかったのね。ボストンでも朱希がお世話になったみたいで、ありがとうね。俊也くんは?」


「いいえ、お世話してもらったのは俺の方です。俊也は、あとで来ますよ」


母と英介の会話に笑みを溢しつつ、ここでは何だから。


「診察室に行こう!」


そうね、と言った母に受付を済まさせて、英介が手配してくれた診察室で診てくれることになった。


時々、みぞおち辺りに痛みもあるという母。

右肩と背中の慢性的な痛み。

もしかして胆石?と、英介に訊くと、 恐らく。


「おばさん、すぐに入院して検査しましょう」


「うん。だけど……荷物は?」


「お父さんに私から連絡して、持って来てもらうよ」


お願いね、と言われた時に俊也が来てくれて。


久しぶりね!

久しぶりです!と、俊也とも挨拶を交わして。


父に連絡をして、病室に母を案内した時に、救急車の音。


「お母さん、ごめん!行くねっ!」


「はいはい。行ってらっしゃい」


病棟の看護師さんに、お願いして救命を覗く。


ちょうど、救命から出て来た俊也と鉢合わせすると。


「緊急オペになるかもしれない。おばさんの検査は、早急に俺が手配しておくから朱希は準備してオペ室に待機してくれ」


「わかった。お願い!」


任せろ、と頭を撫でてくれた俊也に背中を向けて、ロッカールームへ。


手術室に行くと、林主任から。

高橋先生に連絡を受けてるわ、よろしくね。


オペ内容の報告を受けて、器具を準備する。

そして、、、150cmちょっとしかない私は見上げなければいけない、英介の医者の瞳を、看護師の瞳で見つめると、朱希。

止まったよ、今日も手の震え。

そう伝えてたくて、代わりに頷くと頷き返してくれる。


この先、英介とどんな関係になったとしてもー……

英介が医者で有り続ける限り、私が看護師で有り続ける限り、

この時間だけは、英介の隣は私専用。

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