ふたつの愛し方
手術後の片付けを済ませて、着替える前に母の病室を訪れるーー…。

父が荷物を持って、兄と一緒に来てくれていた。


朱希、元気そうでよかった。と父。

なかなか似合ってるな。と兄。

濃いピンクの手術着の制服、私は嫌いなのに……ブラコンの私は兄に言われると嬉しい。

自然と顔が綻んでしまう。



「検査は終わった?」


「一通り、終わったわよ。朱希の仕事が終わり次第、俊也くんが説明してくれるって」


母がそう答えてくれた時に、手術室と救命を離れる時に首から掛けている、私の専用コールが鳴った。


『朱希、お疲れ。説明するから2階の診察室に来てくれ』


「わかった。すぐに行くね!」


胆石だけでありますように、と願う。


ーーーーー。

診察室には、英介も来てくれていて。

美和も来ていて、視界に捉えた母はすぐに美和に声を掛けた。


美和ちゃんよね!?綺麗になったわね!


「おばさん、ありがとう。私ね、病院の隣の薬局で薬剤師してる傍らで。病院の臨床技師もしてるの!」


美和は、この病院の二人しかいない臨床技師の一人。

どうやら、母の血液検査と尿検査をしてくれて此処にいるんだろうね。


「あらっ!そうなの!スゴいわね、美和ちゃん!」


長くなりそうな予感に、座ってよ、と椅子に促す。


検査結果は、胆石で間違いないらしく。

腹腔鏡下手術。

早急にということで、明日の午後からになった。


執刀医は英介。


「朱希。器械出し、出来るか?」


チラッと英介を見ると、そう問われた。

母の手術だからだよね。

お腹は切らなくても、最悪は切らなければならない場合もある。



「出来るよ!」


迷いなんてない。

母の病気が良くなるなら。

それに、英介の隣は私専用だから。

美和を見ると、フフっと口角を上げて微笑んでいる。

愛されてるね、声には出さずに言われた。




「明日は来れる?」


「休みは暫く、取れたから大丈夫だ」


病室に戻ってから、私が父に訊ねた答えに母は満面の笑みになる。

父を溺愛している母は、嬉しくて堪らないみたい。

クールであまり表情には出さない父も、ちゃんと母を心から溺愛している。


「俺も明日は、偶然にも休みだから来るからな」

兄が頭を撫でて言ってくれる。

今度は私が満面の笑みになる。

一度は、結婚を考えた相手が私に触れる兄に嫉妬して、私に牙を向いた時に兄は私を守ってくれて破談になった。

本当に、俊也のように優しい兄。

ブラコンは卒業したくても、まだ出来そうにない。
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