ふたつの愛し方
日勤の業務を終えて、手術室横のカンファレンス室の灯りが僅かに、開いたドアの隙間から漏れていて、そっと覗くと。

俊也と英介が話をしていた。


お疲れさま、とドアを開けて中に入ると。

二人の視線がCTとMRI画像から、私に移って、お疲れ、と俊也。

早くドア閉めて朱希もこっち来いよ、と英介。


「邪魔した?」


「邪魔だったら追い返してる」


英介を見上げると、頭にポンっと手を乗せられて。

微笑んだ私に、朱希はどう思う?

俊也がCTとMRI画像を交互に指さした。


本来なら、医者が看護師に意見を求めるなんて有り得ない。

だけど、俊也も英介もボストンで数多くの手術を見て来た私だから、訊いてくれるんだろう。


「膵臓がん?」


あぁ……と頷いた俊也の横で腕組みをして立っている英介は、膵頭十二指腸切除術。

ポツリと呟いた。


確かに、CTとMRI画像を見る限り癌は膵頭にある。

胃の一部、十二指腸、膵頭部、胆嚢・胆管を一塊に切除する膵頭十二指腸切除術が望ましい。


「……切る条件はクリアしてるの?」


「もちろんだ。その上で話してる」


必要な条件は3つ。

肝臓や肺などの膵臓以外の臓器に癌が転移していないこと。

お腹の中に癌が拡がっていないこと。

重要な臓器を栄養する大きな血管に癌が拡がっていないこと。


「俊也も膵頭十二指腸切除術に賛成?」


「それしかない。ただ……年齢がまだ若い。46歳、働き盛りだろ」


そうか。

手術的な体力は問題なくても、今後の生活に負担がかかるよね。


「患者さんは同意してんだろ?」


「してるよ」


「だったら……切るしかないだろ」


そんなことは、俊也もわかってるはず。

でも、患者さんの今後を心配してしまうのが俊也だ。

英介も心配なわけではないけれど、今の状態を理解して、少しでも不安を消したいという考え。


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