ふたつの愛し方
《美和》


病院に隣接する薬局の正職員は私だけで、他の4名はパートさんだから、15時から17時の2時間は私のみ。

その時間帯に珍しい来客、北河くん?

渡された処方箋を見るとーー…睡眠薬。

医者は寝る時間もなくて、よく処方するけれど、北河くんは初めてよね?


「どうしたの?」


「朱希が隣に居ないと眠れなくてな……毎日って訳にはいかないだろ?流石にキツい……」


「そう……何があったの?朱希もこの前、来て北河くんを心配してたわよ。疲れてるみたいって」


いや……ちょっとな、と濁されたら余計に心配になるじゃない。

北河くんだって、大切な同級生なのよ!

高橋くんや朱希みたいに強い絆はないとしてもね。

にしても、北河くんと朱希は似た者同志ね。

悩んでも、辛くても、一人で抱えて。

訊いてもなかなか答えない、肝心な所わね。


「朱希は他に何か言ってたか?」


「何も。そんな事を気にするなら話なさいよ!朱希には私からは言わないわよ。もしかしてだけど……噂の許嫁と関係あるの?」


噂だと思っていたけれど、北河くんのこの状況は、関係あるって言ってるじゃない。


「……戻ってくるんだよ、来月」


「やっぱりね。朱希から北河くんとの関係は聴いてるわ。それに、北河くんも朱希を好きなんでしょ?朱希も気づいてるわよ」


だろうな、と。

これだけ俺が朱希に執着してたら。


私は朱希が、辛いのを見るのは嫌なのよ。

唯一無二の大切な存在だから。

高橋くんがいるから、大丈夫だとは思うけれど……高橋くんでは補えない事もあるでしょ。

朱希は言わないからわからないけれどね。


だから………どうするの?


「戻って来た時は、朱希を頼むって俊也には言った。ちゃんと整理して朱希を迎えに行く」


「それならいいけど……あんまり朱希を待たせないでよ?だけど、許嫁との結婚が院長の椅子なんじゃないの?」


私の勘が正しければ、北河総合病院は北河くんが院長になった時点で、個人病院ではなくなる。

許嫁が何処かの大きな病院の娘で、買収される。

そうなれば………朱希は手術室看護師じゃ居れなくなる可能性もある。

朱希が朱希で居られなくなるじゃない。

だって、朱希は手術室看護師にプライドと情熱を持ってる。


「そうだな。俺が院長になれば、病院は許嫁の父親が理事長をしてる、大学病院に買収される。朱希も俊也も守れなくなる」


そんな………何で勘が正しんだろ。

否定して欲しかったわよ。


「北河くんなら何か考えがあるんでしょ?守ってよ、朱希も高橋くんも」


それと、その時は私も。

薬剤師として臨床検査士として、着いて行かせて!


「守るよ。二人は俺には大切な存在だ。近藤が着いて来るなら心強い。着いて来い?」


「……喜んで」



信じてるわよ。

だけど、あまり一人で抱え込まないことね。

北河くんが潰れたら、朱希も潰れちゃうわよ。

言うのは私じゃない。

北河くんには、みんなが心配してるって気付いて欲しいから。
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