ふたつの愛し方
《俊也》


「戻って来たんだ。朱希を頼む」


詳しく話さないまま、頼むってだけかよ?

また一人で抱え込んでるんじゃないだろうな……

そういう所は、朱希と一緒だよ。


ここ数ヵ月、英介は日に日に顔色が悪くなって。

朱希は一人になると、深い溜め息をついているのを見かける。

話せよ?って、何度も二人に言おうとしては言えず………

二人が夜勤の時に、8階の仮眠室で抱き締め合って眠っている姿を見ると、何故かホッとした。

英介も、朱希と抱き締め合って眠った後は、顔色も少し良くなっている。

朱希も安心した顔になっているから、それでいい。


夜勤明けで緊急オペをしてから、事務仕事をして、頼み事をするために薬局に足を向けた。

近藤しかいない時間帯を狙って。


「お疲れ。明日、腫瘍マーカーの検査してくれ?」


「午前中?」


「出来れば午前中がいいな」


はいはい、と言ってくれた近藤は。

そういえば、許嫁が戻って来たんだって?


「ああ……知ってたのか?」


「うん、北河くんから色々と聴いた」


英介が、近藤に話したのは以外だが……おそらく、近藤が問い質したんだろう。

聞き出すのが上手いからな。


「詳しく聴いてるのか?」


聴いてるわよ、と答えた近藤に、教えてくれ、と。

その代わり北河くんには言わないでよ、と前置きした後で、、、

英介が俺には、言ってなかった事態を教えてくれた。


溜め息が溢れた。

俺と朱希を守るためなら、自分で話せよ?

解決した後じゃなくて、する前に着いて来いって言えよ。

言われなくても、俺は着いて行くけどな。


「そうか……教えてくれてありがとう。朱希は俺がその間は守るから、安心していい。で、近藤も着いて来るのか?」


「もちろんよ!二人が医者として居ない病院なんて……つまらないわ。それに大学病院に買収されたら、私なんて臨床検査士としては働けないじゃない」


「確かにな。英介には言ったんだな?」


「もちろんよ。着いて来いって」


よかったな、と近藤の頭を撫でると、紅く頬を染めて。


高橋くん。

朱希を北河くんが迎えに来たら、私と付き合ってみない?


「……なに言ってんだよ?俺は……朱希を好きなんだぞ?」


「わかってるわよ。高橋くんが朱希を好きでもいいの。私を好きにさせるから」


なんだよ?その自信。

思わず笑ってしまいながら、考えておくよ。

いい返事しか受け付けないから、と横から俺に抱き付いて、肩に頭を預ける。

この時、はじめて近藤を、可愛いと思った。

気が付けば、また頭を撫でて髪にキスをしていた。
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