ふたつの愛し方
夜勤明けの昼過ぎの、緊急呼び出し。

慌てて準備をして病院へ急いで、着替えてから手術室に駆け込む。


「ごめんね。夜勤明けの休みなのに……北河先生が緊急オペだから、朱希ちゃん呼ばないと怒られちゃう」


笑顔を浮かべた西山さんに、いいえ、と。

どうやら俊也は予定していたオペをしているらしくて、器械出しは佐々木さんがしているみたいで。

田中先生が第一助手で、必然的に緊急オペの第一助手は、橋本先生になる。

腕を見れるチャンスだと、手術室看護師としての血が騒ぐ。

ライバルなのに……仕事に関しては別。



いつものように橋本先生が居ても、朱希、と呼んでくれる。

それは嬉しいけれど、橋本先生の鋭い視線を感じて、少し動揺すると英介が私を横目に見て頷いてくれて安心する。


ニューヨークに長年いて、アメリカでの医師免許と日本での医師免許を持っているわりには、腕は英介と俊也の方が上だと感じた。

迷いのない助手としての役目をこなしている、俊也に対して橋本先生は迷いがあるのか英介を見て指示を受けている。

もしかすると、田中先生よりも腕は下かもしれない。

今度は、橋本先生が執刀医のオペ看をしてみたい。

そうすれば、腕がどれだけなのかわかるだろうから。


そして、予期せぬ緊急事態が起きた。

橋本先生が切ってはいけない血管を傷付けてしまうという。

動揺したように、手が震える橋本先生だけれど、

英介は橋本先生をチラッと見ただけで冷静に、右手を私に差し出す。

直ぐに、ピンセットに挟んでいた止血ガーゼを渡すと、さすが、と言ってくれる。

ちょっと誇らしい。

橋本先生の前で言ってくれたから。


緊急事態も、英介の技術で乗り切って無事に終了。


最後の器具を置いた英介は、いつものルーティーンをして。

お疲れさま、と周囲に声を掛けた後に、私の頭にポンっと手を置いて、お疲れ。

小さく頷いて、お疲れさま、と返す。


そんなやり取りを、橋本先生に見つめられていた。

嫉妬心を剥き出しの瞳で。
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