ふたつの愛し方
片付けを終えてから、着替えてロッカールームから出た所で。


「貴女がボストンで、英介さんと一緒に居た中村さんよね?どういう関係?高橋先生とも仲がいいみたいだけど……」


ボストンに居た時から私の存在を知っていた……

という事は、ボストンに会いに来てたんだね。


「幼なじみです。北河先生とも高橋先生とも」


「本当にそれだけ?」


気付いているような言い方、さっきと同じ嫉妬心を剥き出しにした、瞳に見据えられる。

背筋がゾクッと震える。

どう答える?

英介が私との関係を隠して、守ってくれようとしているのなら………


「それだけですよ。幼なじみとして身辺の世話をしたり、出掛けたりしているんです」


この答えがきっと正しい。

8階の仮眠室での私達も見られていないはずだから。

信じる?信じない?

貴女はどっち?


「そうなの。本当にそれだけなら……もう身辺の世話はいらないわ。私がするから」


信じたけれど、世話はいらないと出たか……

だったら、北河先生の許可は得たんですか?


許可なしに、そんなことをされるのを英介は嫌がるよ。

信頼してない相手をプライベート空間に踏み入れるのは、許さない人だから。


「今から、許可はもらうつもりよ」


「そうですか。北河先生が橋本先生に任せるのであれば、私はもう行きません」


寂しくて、辛いけど仕方がない。

英介を信じて、耐えて待つしかないから。


「ありがとう。それでは、お疲れさま」


ありがとうって、どういう意味?

何か勘違いしてない?

見守る気も渡す気も、全くないんだけど……

そういう風に捉えたのならば、私が予想した英介の作戦の力にはなれた?

なれたのなら、それでいい。


裏口を出ると、お疲れさま、と俊也が声を掛けてくれた。


「今、帰り?」


「うん。夜勤だったんだけど、予定していたオペが終わってから、帰ろうと思って」


「そっか、お疲れさま。ちょっと話したいことあるんだけど、俊也の部屋に行ってもいい?」


「いいよ。ついでにご飯、一緒に食べような」


さっきの橋本先生の会話じゃなく、医者としての彼女の話をしたかった。
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