ふたつの愛し方
「俊也から見て、橋本先生ってどう思う?」


ご飯を食べた後、片付けを手伝ってからソファーに並んで座って訊いてみる。


「そうだな……彼女はオペの経験はあまりないらしい。内科医としてメインで働いていたからだろうな。朱希はどう思った?」


「助手としての役目がなってなくて、英介に指示されなきゃ出来てなかった。血管を傷付けてしまった時も、動揺してた」


「そうか……だから、英介の腕が欲しいのかもな。自分は内科医としてサポートしたいんだろ」


全ての糸が繋がった。

やはり、彼女は病院と英介が欲しいだけなんだ。

だけど………彼女の瞳は、嫉妬心を宿していた。

本当に、英介を好きなのか。

自分が手に入れるために、私が邪魔だから排除しようとしているのか。


「もしもだよ?英介が橋本先生と結婚して、院長になったら俊也は残る?」


「それは、朱希次第だよ。朱希が残るなら、朱希を守るために残るし、残らないなら辞める」


「残った方がよくない?私は残らないけど……」


俊也は、英介と一緒に外科医として働きたいでしょ?

英介もそれを望んでるよ。

だって、英介の片腕は俊也しかいない。

私を守るためって言ってくれたのは嬉しいけれど。


「俺は、英介が望んでも買収された大学病院に行かされるだろうから、英介と働けないのなら辞めた方がいい。朱希は何で残らないんだ?」


「オペの時に英介の隣に立てなくなることが、英介と橋本先生を見てるより辛いから。あの場所は、英介が医者で有り続ける限り、私以外は極力……立ってほしくないの」


そうか、と俊也は頭を撫でてくれて、
朱希もオペ看としての腕を買われて、大学病院に行かされるだろうな。


そんなの絶対に嫌。

立てないのであれば、離れた方がいい。

英介からも病院からも。


「心配することはないよ。もしもはないから。英介は恐らく今だけは言う通りに従って、買収を阻止出来なければ……辞めて、小さくても開業するつもりだよ。朱希と俺と、近藤を守るために」


「そっか……私たちのために、自分を犠牲にするなんて英介らしい」


何となくはわかってた。

大切な存在を守れるなら、自己犠牲も厭わない。

それが英介の分かる人にしか解らない優しさで、愛し方だから。

美和も、臨床検査士としても働かせてあげるつもりなんだね。
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