ふたつの愛し方
「なぁ……朱希?橋本先生には何も言われてないのか?」


病院を出る前の言葉が甦る。

嫉妬心が剥き出しの瞳に、背筋が震えた。

一瞬だけ怯みたくなくても怯んでしまった自分が情けなかった。

俊也に話したら、俊也は守ろうとしてくれるよね。

守るって言ってくれたし。

それがまた周囲の反感を交うかもしれない。

だけど………話さなければ俊也は余計に心配させるだけ。


俊也は率直な優しさ。

勘違いされることがあるくらい、誰に対しても優し過ぎる。

その優しさこそが俊也の愛し方。


「言われたよ、今日。どういう関係って訊かれたから、幼なじみって答えた。そうしたら、もう世話もしないでって言われた」


「……朱希はそれでいいのか?」


「よくないけど……英介を信じて待つなら……今は我慢しないと。英介が許可したら世話はしないって言っちゃったから」


わかった……と、無理はするなよ。

もっと今は俺を頼れ。


「英介に一途な朱希も好きだよ」


どういう好きなのか気になったけれど、訊いたとしても俊也は今は、素直に言わないよね?

英介の代わりに守ろうとしてくれてるんだもんね。

だから、ありがとう。



「眠れなかったら、いつでも来いよ?一緒に寝てやるから」


「重ね重ね、ありがとう。それなら今日は、甘えてもいい?」


「いいよ。明日は、俺も日勤だから一緒に寝ような。朱希の部屋の玄関で待ってるから、用意しに行こう?」




俊也が、頭を撫でてくれる温もりが私は昔から好きだから、いつの間にか心地好くて眠っていた。

私が泣くと、涙を拭いて頭を撫でてくれる。

その手は、いつも温かい。


朝、起きると俊也は気を使ったのか……隣には居なくて、俊也が居たはずの場所は冷え切っていた。


朝ご飯できたよ、と起こしに来てくれた俊也。

リビングのソファーにブランケットが畳んであったから、私が眠ってからソファーで寝たんだね。

気を使わなくてもいいのに………



ありがとう、また眠るまで側に居てくれる?

いつでも来いよって言っただろ。

うん、また来るかも。

英介が迎えに来るまで遠慮はするな。
甘えていい。

わかりました!遠慮しない。
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