ふたつの愛し方
慌ただしい日々の中ーーー。


英介と橋本先生の姿を見かけると、つい瞳を逸らしてしまう。


だけど、理事長の娘のお嬢様だからか、夜勤のシフトからは外されているらしいのが救い。


もしも8階で英介とたまたま重なって、一緒に過ごしている所を見られたら、全てが水の泡だもんね。


オペの時も、ただ英介の隣に立つだけで、英介に触れている気がする。

薄い手袋越しに指先が触れるだけで、今はドキッとする。

オペの前後に、朱希、と言ってくれるだけで嬉しくなる。



そして、時にすれば2週間程なのに…ーー…もっと長く感じた、夜勤の仮眠休憩時間ーーー。


当然のように、英介とキスをして。

止まらないからおしまい、とお預けにされて、ベッドで隙間なく抱き締め合いながら。


「帰ったら、朱希の部屋に行ってもいい?」


「いいよ」



急に訊かれて、ドキッとしたけれど…何かいつもと違う、英介が引っ掛かった。

帰ったら、ちゃんと訊こう。

前みたいに思い悩んで苦しいのは、もう嫌。

ちゃんと訊けば、英介は答えてくれる。



「まだ英介の服や下着、置いたままにしてあるよ。いつでも来れるように」


「ありがとう。自分の部屋に寄らずに行くよ」


時々、洗濯や掃除を頼むって言われて。

行っているけれど、橋本先生の甘い匂いが服から香る。

だからつい、洗剤も柔軟剤も多めに使ってしまう。

だって、甘い匂いは吐き気がするんだもん。

苦手な匂いだから。



今は、消毒液の染み込んだ匂いだから安心する。

甘い匂いより、全然いい。

英介も苦手なはずなのに、よく耐えてると思う。

それとも、嗅ぎ馴れたら平気になるのかな。

ううん……馴れて欲しくないと、首を横に振ると。


「朱希の髪の匂い……安心する……俺の好きな匂い」


「……よかった」


そう、よかった。

嗅ぎ馴れてなかったんだね。

ゆっくり顔を上げると、ん?と微笑んでくれた英介の唇を舐めると。

バカ、と唇を重ねられて……柔らかいキスを返してくれる。

それだけで全てが完成するような、満たされた気持ちになる。

もう何もかもが英介じゃないと……満たされないと思う。


だからこそ、今は英介から告げられる事実を全て受け止める。





一緒に帰って、ご飯を食べてからシャワーを浴びてーー……ー

ベッドの上で英介は、ごめん。


ごめんの意味のを訊く覚悟は出来てる。


だから、包み隠さずに話して?
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