ふたつの愛し方
《華世》


「……ンンっ……!……アアッ……!」


ベッドの中で、英介さんにすっかり溺れた私の身体は簡単に反応して、あっという間に絶頂に連れて行かれる。

英介さんが熱い液体を、私の中へくれるまで何度も何度も。


「英介さん……好きよ……愛してるわ……」


そう言っても英介さんは、ああ、としか言ってくれない。

一度でいいの。

好きって言ってほしい。


「悪い。今日はイケそうにねぇわ」


ズルッと引き抜いたかと思うと、すぐに下着と服を着て。

話がある、と。


まだ余韻に浸りたい私は、裸のままベッドサイドに座る、英介さんの背中に寄り添うと、離れてくれ、と。


今まで聴いたことのない冷たい声で言われて、ビクッと反射的に離れていた。

そしてーー…。


「華世……今日で終わりだ。お前とは結婚しない。婚約関係があったのなら、それも解消だ。ありがとう、色々と教えてくれて」


「……私は……英介さんを本気で……だから……父の賄賂も脱税も話したのに……愛してるの……」


背中に抱き付いて、自然と溢れ出す涙と声を抑え切れず、腕に力を込めるけれど解かれてしまう。

無駄だから、とさっきの冷たい声。


立ち上がった英介さんは、上から私を瞳さえも冷たく見下ろして……


「最初から気がある振りをして、抱きたくもねぇのに、キスもしたくねぇのに。全ては本気にさせて、溺れさせて、理事長の事を聞き出すためだったんだよ」


そんな………私は利用されただけ?

この私が?

今まで何の不自由もなく、育ってきた私が………

悔しいけれど……英介さんになら利用されても構わないと思っていた。


「それなら……もっと利用して。利用価値はまだあるわ!」


「残念だが……もうないよ。お前の本性は知ってる。俺の幼馴染に嫌みを言っていたのも聴いてた。薬剤師の同級生にも、看護師連中にも上から目線で……俺が気付いてないとでも思ってたか!」


何も言い返す言葉がない。

言えるわけがない。

英介さんは、私が想像していた以上に頭が切れる。

言いくるめられるのがオチだ。

それに変わることのない冷たい瞳。

この瞳に見つめられると、抗うことは出来ない。


「医者としての腕も大したことない。うちの看護師連中の方が、よっぽど優秀だよ!俺の周りの人間に手を出したら、不正はもちろん通報するが、お前の秘密も全てを通報するからな!」


「……証拠はあるの?」


「本当に……バカな女。証拠なしに言うと思ってんのか!」


何も言い返せない私を他所に、英介さんは出て行った。


私は、裸のままベッドに伏せて声を上げて一人で………泣いて夜を明かした。
< 70 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop