ふたつの愛し方
《英介》


翌日、俺は案の定、親父と理事長に呼び出された。

開口一番に、結婚しないとはどういう事だ!

親父の罵声が飛んでくる。


「言葉のまんまだよ!不正にまみれの大学病院なんかに買収されて、好きでもねぇ女と結婚させられるなんて真っ平ごめんだよ!」


座ったまま告げると、親父と理事長の瞳が見開かれた。

俺が知っているとは思わなかったんだろう。


「知っているようだね。証拠はあるのか?」


「ありますよ。娘さんから訊いた、録音済みの証拠がしっかりとね。既に警察には提出済みですから、近いうちに調査が入りますよ」


理事長は項垂れて、親父は愕然としている。


「理事長、早く戻られた方がいいですよ。無駄だと思いますが、証拠隠滅くらいされたらどうです?」


軽く舌打ちをした理事長は、慌てて飛び出して行った。



親父の話では、うちは賄賂を貰っていない。

脱税も知らなかった、という。

だけど、早かれ遅かれ調査は入る。


「これから、英介はどうするんだ?」


「俺は……親父が不正に荷担していたなら開業しようと思っていた。荷担していないのであれば病院に残る。ただし条件がある」


その条件とは………

親父が院長を退くこと。

だが、俺が院長になっても、経営者って柄じゃないから経営面は、俊也に副院長に任命して任せたいこと。

俺は、第一線から退く気はないこと。

今、病院で働いてくれているスタッフ全員を、そのまま残すこと。


「わかった。英介に従おう!」


「ありがとう、親父。とりあえずは、大学病院との買収に関する書類を、全て出しといてくれ」


わかった、と言った親父を信じて、院長室を出ると、扉を背に崩れるように項垂れていた。


あと少しで終わる。

全て片付けば、やっと朱希を迎えに行ける。

俊也と共に、病院を更に守り立てていける。

近藤が、臨床検査士を続けたいという望みも、叶えてやれる。

たかが、数ヶ月………長かった。


今は、ただ一日でも早く…ー…朱希を抱き締めて。

朱希の温もりを感じて眠りたい。
< 71 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop