ふたつの愛し方
英介から、俊也と私に話があって数ヶ月後ーーー。


大学病院に捜査が入り、理事長は逮捕されて、北河総合病院にも捜査は入ったものの関与は疑われずに免れた。

そして。

英介が院長になって、俊也が副院長になって経営面を、元の事務長と共に任せられることになった。

私は相変わらず、手術室看護師だけれど変わった事は、林主任と西山さんが家庭の事情で辞めてしまって、主任になった事かな。


英介は、正式には忙しくて迎えには来てくれていない。



そんな最中、辞めたはずの橋本先生に病院の裏口で待ち伏せされた。


「私ね、お腹の中に英介さんの赤ちゃんがいるの」


英介が何も考えずに、そんなヘマをするはずがない。

口では何とでも言える。


「証拠はあるんですか?証拠を持って、もう一度来て下さい」


英介に捨てられて、私との関係も調べたんだろう。

ただの幼なじみじゃないことも気付いてるから、私から英介と離れるように仕向けて来たに違いない。

こんなやり方は、英介の逆鱗を買うだけなのに。

英介を手に入れられるはずがないのに。


「……そんなに彼を信じているのね?」


「はい。貴女よりも何十年も長い付き合いですから、優しい英介も。冷たい英介も見て来ました。こんな事で英介を騙して、自分のものにしようとしても無駄ですよ」


私がそう言って一歩、橋本先生に詰め寄った時ーーー。

後ろに手を引かれたかと思うと。


「本当にバカな女だな。俺の忠告を聴いてなかったのか?」


低くて甘い声。

見上げた先には、端正な綺麗な横顔。

英介!?

私を見て微笑んで、指を絡めて手を握ってくれた。


「華世。俺がお前を信じて避妊しないで、中に出したのは最初の2回だけ。よくよく考えてみろよ?それ以降、わざわざヤるだけのためにホテルに行かないだろ?お前が浮かれる間に着けれて、処分にも困らないからな。簡単に、妊娠するはずがないんだよ!」


この声は、私も背筋が凍るくらいの冷たい声。

苦虫を潰されたような顔で、下唇を噛む橋本先生は何も言えずに、立ち尽くしている。


「お前は俺の忠告を無視して、朱希を一瞬でも傷付けた。医者として居られないようにしてやる。覚悟しとけ!」


「……どうやって?」


「ニューヨークで医療ミスをしている。理事長が多額の金を払って、証拠を隠滅してる。だが、まだ証拠が残ってたんだよ。この事実が医道審議会にバレたらどうなる?少なくとも日本の医師免許は剥奪だな」


「……そんな証拠あるわけない……」


「あるんだよ。お前と同じニューヨークの病院に居た医者が記してたんだよ。残念だったな」


悔しそうに、泣きながら逃げるように去って行った橋本先生が見えなくなってから。


詳しくは帰ってから話すよ。


英介に手を引かれて、久しぶりに英介と二人で英介の部屋に帰った。

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