ふたつの愛し方
ロッカールームで別れて、慌ただしく着替えて。

カンファレンス室に召集されて、腹部大動脈瘤破裂。

緊急を要する手術にバタバタと準備に追われ。

手術室に入って来た英介に、朱希、と呼ばれて隣に立って見上げると、満足気に頷いてくれて、

上がったと俊也が言っていたスピードに着いていけるかの不安と、未だに少し震えてしまう手の震えも止まって、不安もスーッと消えて大きく深呼吸をする。


確かに上がったスピードに劣らないように、英介の手元に全神経を集中しつつ、そのスピードと、迷いのない動きに圧倒される。

第一助手の田中先生も着いて行くのに必死だ。


2時間後に終わってからーーー、

夜中まで、私の身体を弄んでいた手と指先は、手袋越しに真っ赤に染まっていた。

外した手袋を足元のゴミ箱に捨ててから、患者さんの肩口にそっと手を置くのは昔から変わらない、英介の手術後のルーティーン。

お疲れ様です、と声を掛けられて手術室を出て行く英介の後ろ姿を、見送ってから。


私が居た時から手術室看護師の主任の林さんに、緊急呼び出しだったんでしょ?


「片付けはしておくから、勤務時間まで少し休憩しておいで」


その有難い言葉に甘えて、ありがとうございます。


着替えてから、売店でカフェラテを買って、中2階のテラスに行くと、俊也の後ろ姿を見つける。


俊也!?

声を掛けると振り返ってくれた俊也の横に立つと、お疲れ、と髪を梳すように撫でてくれる。

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